Idola
イドラ 前編
《国家特別公安局第零課》
・通称〈公安零課〉
・課章〈
・課旗〈
〈零課の編成〉
・課長
・国家安全保障部隊(実動部隊)National Security Service
・
・現地情報屋(野生のカラスを含む)
・潜伏工作員
・研究開発室
・情報分析室
・任務支援部隊(WDU、SAT第零小隊として存在)
零課はかつて単に特務機関と呼ばれていた、日本最古にして
《内閣
・通称〈公安六課〉
・課章〈
・課旗〈
〈六課の編成〉
・室長(課長)
・統合特殊工作班(実動部隊)Joint Special Operations Group
・第一セクター(ヒューミント部門)
・第二セクター(シギント部門)
・第三セクター(サイバーセキュリティ部門)
・高等技術開発局
・準軍事部隊(国防陸軍第28独立情報保全隊として存在)
日本のインテリジェンス・コミュニティーの中心である六課は法的根拠が
零課、六課ともに国益のために活動しているが、必ずしもその方向性が一致するわけではない。零課は下手をすれば国家崩壊の危機に
〈時刻1349時。日本、広島県〉
広島県南西部に位置する
「さて、たいぎい視察が終わった終わった」
一は珠子とともに
二人は国防海軍基地と海上保安大学の視察を一週間にわたって実施。これはスパイ調査を
「たいぎい? ですか?」
助手席に座った珠子は一に言葉の意味を尋ねた。
「ああ、広島弁だよ。身体が
「なるほど。でも、一は県外出身では?」
「そうだ。俺は隊長に引き抜かれて広島に来た。だから方言は隊長
「隊長が方言使っているところ、見たことない」
一はアクセルぺダルをゆっくりと踏み込んで車を発進させ、海上保安大学校を出る。
「確かに。隊長は
「……隊長、大丈夫よね」
「ああ。隊長のしぶとさはよく知っている」
少し空がどんより暗くなってきた。雲行きが
「滝も隊長の
珠子は警察庁警備局警備企画課、通称〈ゼロ〉の出身。表向き存在しない国家特別公安局第八課で、六課とともに〝真の零課〟の隠れ
「伝説の賞金
「本当に驚いただけか?」
一の指摘に珠子は一呼吸置いて答える。
「恐ろしさも感じた。そして、
「だろうな。隊長は過去に八課員を殺している。それも自殺や事故に見せかけて。隊長は滝の気持ちを分かった上で零課に
ここで不意に珠子は先日の零と一の会話を思い出す。表情に出したつもりはなかったのだが、一はそれに気が付いた。
「そうだな、俺と隊長の話でもするか。別に機密指定されているわけでも、隊長から
信号が黄色から赤に変わり、停止線前で車は止まった。
「俺が
信号が再び青に変わり、静かに車は発進する。
「ある日、俺達は何者かの襲撃を受けた。襲撃犯は三人。一瞬のうちに五人の仲間が殺され、俺は重傷を負った。正直、今でも生きているのが不思議なくらいだ。俺は
フロントガラスに水滴が付いた。雨だ。ぽつぽつと振っていた雨は
「相手は零課。でもどうして零課は六課の妨害を?」
珠子の疑問は
「今になってその理由が分かったよ。零課はブラックレインボーのことを
「さすが零課ね」
「俺は仲間の
〝私を殺したいか〇〇〇〇?〟
〝私が
〝ならば私の
〝そして、お前に背中を
〝いつでも好きな時に私を狙うといい〟
〝まあ、私を殺せることができるならな〟
〈日本、広島県(公安局本部)〉
射撃演習場ではブライアンと健がVR訓練を行っていた。ブライアンはXSR‐99L超電磁式スナイパーライフルを構え伏せており、その左横にいる健は多機能観測器GIDで狙撃の着弾を確認していた。
平地に置ける超長距離狙撃訓練。単純に目標が遠方に表示され、それをいかに正確に
シュッパンッ!
「ヘッドショット。距離4365メートル」
シュッパンッ!
「ナイスショット。距離5890メートル」
観測手である健がブライアンに命中判定と狙撃した目標の距離を伝えていく。本来なら観測手は目標までの距離や風向き、角度等の修正を指示するが、今回の訓練ではブライアンが単独で超長距離狙撃を行えるようになるのが目標だった。ゆえに、健は事前に目標の情報をほとんどブライアンに教えず、ブライアンは淡々と狙撃を行っていた。
シュッパンッ!
「ミス。誤差修正、上に0.03度、左に0.10度」
今、ブライアンが外した目標はアンドロイド兵の頭。アンドロイド兵はその場からほとんど動いていないが、
シュッパンッ!
「いいショットだ。ビューティフル。距離8802メートル。ブライ、今日はこのくらいでいいんじゃないか?」
「そうだな。もうあがろう」
目の前には今日の狙撃記録が表示される。
〈記録〉
狙撃手:
観測手:
使用武器:XSR‐99L
最長距離:8802メートル
最短距離:4000メートル
ワンショット最長:8370メートル
撃破目標数:85
ミスショット:5
「だが、目標とする一万メートルには
「
「分かってはいるけど、なかなか落ち着けないんだ」
「とりあえず
「ああ」
二人はVR訓練を終了し、
〈殿堂入りレコード〉
狙撃手:
観測手:
使用武器:XSR‐99L
最長距離:12233メートル
ワンショット最長:12233メートル
〈XSR‐99L〉
試作超電磁式スナイパーライフルXR‐99をモデルに改造された新型狙撃銃。全長152.4センチ、重量14.64キロで、理論上の最長有効射程はSRA‐55Jを
モデルとなったXR‐99は誘導弾を使用した対艦・対装甲車用ハイテク狙撃銃で、超長距離の狙撃が可能だ。味方の偵察デバイスや偵察ドローン、人工衛星による標的マーキングにより、発射された弾が自動的に標的へ
「もっと耐久性を上げないと」
開発室ではケナンが新型戦闘スーツの試作を行っている。これは零専用になる予定の
「ガントレットも一から作り直そう」
零が両腕に着けている多目的ガントレットは単純に防具として使えるだけでなく、ワイヤー射出器、ダガーナイフ収納、スライサーディスク射出器、暗号通信、遠隔操作パネルといった様々な機能を内蔵している。零にとって重要な装備だった。
「
楽しそうにケナンは
情報分析室。ここは主に零課のエージェントや実動部隊が収集した情報を整理、保存、分析する部屋である。特に第三情報分析室は由恵やケナンが使っており、ほとんど二人の専用部屋と化していた。
「まさか鶴間があのレインマンだったとはな。驚いた」
「零課で知らなかったの、多分、直樹だけだと思うよ」
「それはそれで何というか……変な気持ちだ」
「あははっ。そういえば直樹はどうして零課に? 元HRTなんでしょ?」
「そうだな」
第三情報分析室では由恵と直樹がブラックレインボーに関する情報の分析を行っていた。
「五年前、広島で起こった《シヴィル・ソサエティ事件》は知っているかい?」
「知ってる。過激派
「そう。俺は当時、市内で多発していた
「零課の
「三つの人質救出任務で隊長と一緒になり、そこで引き抜かれた感じかな」
シヴィル・ソサエティ、日本語で〝市民社会〟を意味するこの宗教団体は、公安二課による強制
事件終結後、公安二課を中心とした公安警察はWDUと共に全国のシヴィル・ソサエティ支部を全て制圧し、関係者を例外なく
〝何も!
〝何を言っているのか私には分からない〟
〝武器を捨て命
〝最優先は社会の
〝ですが!〟
〝では聞こう。大人だったら、男だったら殺しても構わないのか?〟
〝そういうわけでは〟
〝私にとって何も変わらない。むしろ
〝それは……〟
〝私の経験から言わせれば命
〝確かに彼女達の洗脳は深刻でした〟
〝現実と理想は違う。それは嫌でも納得するしかない。それが私の仕事だ〟
〝
〝私に
二体のクロウが資料室で
《伊波 零》
・本名:データ無し
・年齢:データ無し
・性別:女性
・前歴:データ無し
・所属:零課国家安全保障部隊(隊長)
・記録:全訓練項目(VR訓練、総合演習を含む)で初回満点を獲得済み。
「隊長、復帰にはまだ時間がかかるみたい」
「大丈夫かな。人間の身体は壊れやすいのに」
「そうだよね。機械の身体にすればいいのに」
「でも、隊長は機械化しないと思う」
「何で?」
「うーん、隊長と長く一緒にいるとそんな感じがする」
スフルは零がサイボーグ化しないことを理解していた。
「おいおいー、そんな
「
クロウには高度な顔認証機能が
「
「
「人間って変だなー」
「人間全体というより隊長個人かな」
「まだまだ人間について、隊長について学習しなくちゃいけないね」
「そうだねぇ」
課長室では由恵が武佐へ資料を提出していた。ブラックレインボーが今後どのように動くかという予測である。
「ありがとう由恵。他にも仕事があるのに」
「データ自体はありますから。そんなに時間はかかっていません」
「そうか」
武佐は紙資料に目を通しながら、デスクに映し出されるホログラム資料にも目を通す。
「相手の次の手は潜入と暗殺か。それもかなり
「はい。仕掛けてくるとすれば二か月後でしょう」
「ラーンの動きは
「各部署へ事前通達していますが、完璧な対応はまず不可能かと。スペードのクイーン、ソールは戦術兵器でありながら戦略兵器でもあります」
「君のハッキングも駄目か」
「おそらく。ブラックレインボーの対電子戦能力は日を追うごとに向上しています。クイーンへの直接ハッキングも間違いなく返り討ちに
長い
「あまり頼りたくないが、軍を動かすことも考えよう」
〈時刻2311時。日本、東京都〉
1980年代のSFアニメを
「相変わらず
東京は超高齢社会の到来により、人口の急激な
「これでも昔より
久しぶりに東京へ来た響はバー〝ファンタム・レディ〟へ入った。
実在しない女(Phantom Lady)を意味するこのバーは地元の不良に愛されている店で、かつては暴走族の待ち合わせ場所としても使われていた。
「おいす」
手を挙げてマスターに
「ご注文は?」
「スケアクロウ」
メニューを確認することなくマスターに
「かしこまりました。少々、お待ちください」
注文を受けたマスターはその場でカクテルを作らず、店の奥へ
「スケアクロウでございます」
「ありがとう」
グラスを受け取ると同時にマスターから小さな紙片を
「ふーう、身体に染み渡る」
一口でグラスの中身は半分になっていた。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
響の左隣に新しい客が座る。男性だ。
「コスモス」
「……
「お
隣の男が言葉を返す。二人とも友人ではないが知り合いであった。彼は公安二課、
「何かいい
そういって響はグラスに残っていたカクテルを全て飲み干した。
「そうだな。
「おいおい、いい歳したおじさんがアイドルの追っかけか」
ここでマスターが隣の男に完成したコスモスを提供する。
「コスモスでございます」
マスターへ小さく
そして再び口を開く。
「何言っているんだ。今の時代、アイドルを支えているのはおじさんさ。アイドルも多様化してバーチャルアイドル、アンドロイドアイドルなんてものもある」
「ほお。すごいな。
「そうだなシスター・ダイヤモンドとかいいぞ」
「その名前は聞いたことあるな。三人グループのアイドルだったか」
「見てみろよ。二か月後に広島でライブがある」
「覚えておく。じゃあな」
一は
「課長、今戻りました」
『どうだった?』
マスターから
太陽は大陸を
「四課によるとソールは中華連にいるようです。どうやら505と軍を相手に暴れているようで。また、二課はラスト・オーダーを
『クイーンの力は
「ライバルに塩を送っただけでなく、今度は公安局と共同戦線ですか」
ここでいうライバルとはスミルノフ、505、ゼニス、ヴァイスを指す。
『秘密主義過ぎると我々も動けないことがあるからな。ラオスやフィリピンとの水面下協力もあるだろう』
「課長の命令とあらば」
《零課のライバル》
零課の存在に感づき、零課と
・「スミルノフ」
ロシア連邦軍
・「第505機関」
中華人民連合の陸軍対外情報局。四つの特殊部隊が存在し、それぞれ
・「ゼニス」
イギリス秘密情報局軍事情報
・「ヴァイス」
ドイツ特殊部隊作戦指揮司令部
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