オブセッション 後編
〈アメリカ、ラウェルナ州(フォクトレン実験基地)〉
アメリカ軍秘密基地の一つ、フォクトレン基地。ここはシャドウ・リーパーが生み出され、その教育と訓練が行われた実験施設でもある。〝プロビデンス〟の手回しによって建設されたこの基地では人間の能力に関する
〝プロビデンス〟は人間を
しかし何十年にもわたる研究の
《クイーン計画》
A.強襲
B.拠点防衛
C.電子戦
D.奇襲
《ニュー・オーダー軍計画》
1.国連常備軍(無人統合軍)
2.世界企業連盟(民間軍事警備企業)
3.ブラックレインボー軍
〝プロビデンス〟配下のアンドロイド兵は現時点で百万体を超えており、さらに世界で命令待機アンドロイド兵も含めると四百万体以上である。またアダマス・ハイ・インダストリーズやアリュエット・マイティ・サービスによって増産が続いており、事実上、
フォクトレン実験基地は地上と地下からなる軍事複合施設である。地上はそれほど特色がないが、地下は想像を絶するほど巨大だ。森林や砂漠、浜辺、湿地、雪原、高地、港湾、都市等が人工的に再現された訓練施設、高度軍事用仮想シミュレーター施設、射撃演習場、
研究棟では世界中の
この基地の存在は零課にとって
〝プロビデンス〟はこの非常事態に対し、アリュエット・セキュリティ・サービスとダイヤ部門を中心とした対策部隊を
フォクトレン実験基地の
《
本部中隊(第1特殊任務中隊)〝シャドウ〟
第2特殊任務中隊〝ブラッド〟
第3特殊任務中隊〝ヘイズ〟
第4特殊任務中隊〝ヴァイパー〟
第5特殊任務中隊〝ブッチャー〟
第6特殊任務中隊〝デーモン〟
第12地上支援中隊〝フロスト〟
第13地上支援中隊〝ダスク〟
第25航空支援中隊〝エッジ〟
第26航空支援中隊〝ブレイズ〟
第47海上支援艦隊〝アーク〟
第94戦略機動大隊〝ストーム〟
「定時連絡。こちらヴァイパー2‐3、ブロック
『ヴァイパー2‐3聞こえるか? ブロック
「こちらヴァイパー2‐3了解した。これよりブロック
『オッドアイから全隊へ。侵入者の可能性を
基地の地上警備が強化され、地下への入り口が閉じられる。地上と地下を
しかしこれは完全にオッドアイの判断ミスだった。
〈
『こちらソーズマン。通信施設への爆薬設置完了』
『ギーク、こちらもいいぞ。武器庫と兵舎の爆破準備オーケーだ』
「二人とも仕事が早いよ。もう少しデータを集めさせて」
とうに零課は地下へ侵入していた。シャドウ・リーパーは気付いていないが、フォクトレン実験基地のスキャナーは使い物にならない。先ほどのスキャナーのノイズ報告はこちらの細工であり、地上を
健と進は最小限のシャドウ・リーパー兵を仕留め、施設内への破壊工作を進めていた。
一方、由恵はシャドウ・リーパー兵の生産方法、訓練内容、人体実験といった各種データを
究極の兵士を生み出す計画〈Project: Shadow〉
軍部ではディガンマ・フォース創設計画として知られている。
「サイボーグの私が言うのもなんだけど、人間をここまで作り変えるなんてね。これを人間と呼べるの」
〈Project: Shadow〉では「人間の
〈人工培養ルーム〉
「たまげた。これが全部、人間なのか……」
直樹の目に映っているのは五千を超える人工子宮。その中には成長段階の
「アメリカ最高機密部隊であるはずよね。存在してはならない者達。生まれながらにして究極の兵士。それがシャドウ・リーパー」
「神の
珠子と直樹は部屋の各所に時限爆弾を設置していく。
「
「多分、言葉で表すのは無理だと思う。複雑、あまりにも複雑過ぎるから」
「隊長も言っていたな。『人間とは変数だ』って」
「……彼らもまた人間」
「俺達は彼らを人間として
「ええ」
研究データの収集とオリジナルデータの削除を終えた由恵が二人のもとに来る。
「こっちの仕事は終了。二人の方は?」
「これで最後だ」
直樹の手によって最後の時限爆弾が設置された。
〈地下中央司令部〉
「こちらオッドアイ。ヴァイパー隊へ。ブロック
前線で指揮しているアインスに代わり、司令部で指揮を
「ヴァイパー隊、侵入者を
『いいや。どうやら野生のカラスがスキャナーに引っ掛かったようだ。
「了解した。ヴァイパー隊、引き続き地上を
だがあくまでもゲイリーの
(野生のカラスか。今日はこれで二度目だな)
鳥がスキャナーに引っ掛かるケースはごく
一回目の誤反応は今からおよそ15分前。一匹のカラスがたまたま基地内に侵入し、地下ゲートを突破した。そのカラスは困ったことにすばしっこい上、いたずらっ子であった。地下施設にまで迷い込んだ一匹のカラスによって、地下セキュリティシステムは繰り返し誤作動。意味のない警報と異常報告に
ゲイリーらシャドウ・リーパーは見抜けなかったが、最初地下へ侵入したのは零課のAI
「少佐! セキュリティシステムの自己診断プログラムに変更が加えられています!」
「何だと!? そんな馬鹿な!」
部下から思わぬ報告を受けたゲイリーは驚きを隠せなかった。
「自己診断プログラムだけではありません!無人ユニットや監視カメラ、通信システム、敵味方識別信号、アクセスコード、
「ありえない! そんないつの
と、地下中央司令部へ訪問客が現れた。一と響の二人。
「こんにちは。そして
侵入者の司令部襲撃を想定していなかったため、次々と射殺されていくシャドウ・リーパー士官。ゲイリーも専用のCrF‐3100で応戦しようとしたが、すぐに一によって
「こちらトワイライト。司令部を制圧。次の仕事に取り掛かる」
〈地下実弾演習場(中央セキュリティゲート)〉
地下には様々な訓練場が
『オッドアイから各訓練大隊へ緊急伝達。現在警備にあたっている者も含め、訓練大隊は十五分後に臨時訓練を実施する。なお訓練内容は総合実弾演習であり、詳細は開始時刻に伝えられる。第一訓練大隊は第四総合火力演習場へ。第二訓練大隊は第九総合火力演習場へ集合せよ』
わざわざ地下の警備兵を増員したにも関わらずの臨時訓練。サイファーによる基地襲撃もあり得るのだが、訓練兵達は
『こちらトワイライト。アーチャー、聞こえるか?』
「ああ。聞こえている」
『敵さんの様子はどうだ?』
「不気味なほど素直だな。仕事が楽で助かる」
中央セキュリティゲートを次々と通過していく訓練兵。シャドウ・リーパーとなる訓練課程は
「この様子だと訓練大隊の封じ込めは問題なさそうだ」
零課は地下施設の爆破準備を着実に進めている。最終的に各所爆破後、地下中央司令部で自爆システムを起動し、ここを完全に吹き飛ばす計画だった。地上部隊は存在しない敵を索敵し続け、その裏で地下は完全に零課の手に落ちている。ブラックレインボーにとって危機的状況なのは間違いない。
「このまま
ブライアンの不安は悪くも的中した。レクイエム計画発動に
〈フォクトレン実験基地 地上〉
ヴァイパー中隊とアンドロイド兵は地上を警備しているが、侵入者の形跡は一切なく、カラスによるスキャナー誤反応は間違いないようだ。
そんな中、大型ティルトローター機Vz‐25が二機、基地の滑走路に降り立った。
「おー、増援が来たぞ。これは多分バレたな。各員へ通達。Vz‐25が二機到着した」
地下中央司令部でVz‐25の着陸を見ていた一は仲間達へ伝達した。
「クロウ、敵にばれないように高高度偵察を開始」
『りょーかい』
機内からはラックに
AH‐5C達を
「AH‐5Cが700体。これは相当まずい状況だ」
「ヴァイパー中隊はゲートの封鎖を。後は我々が引き継ぎます」
「了解だ」
国連常備軍が来た理由は当然、零課の掃討だった。彼らはアルヴェーン
「シャドウ・リーパーの本拠地を襲うとはな。さすがサイファーといったところか」
零課の恐ろしさは余りにも大胆不敵であり、
「これより侵入者の掃討を開始する」
〈フォクトレン実験基地 地下〉
地下Aホール。三階階層の巨大な円状空間であり、地下中央司令部と地下第一警備室、兵士再調整センターへの連絡通路が続いている。地下の
「いたぞ! 撃て!」
小隊長の
「はっ、
「同感だ」
二人の反撃により、小隊長を含めた五体のアンドロイド兵が倒れた。数が多いというのも問題だがAH‐5Cは弾道計算することで銃弾を回避し、味方と協調しながら制圧射撃と前進、
「アーネスト、そっちはどうだ?」
『ドクター、クーガーと共に交戦中。今のところ問題ない。敵の武器もあるしな』
「アーチャー、ギーク、ソーズマン、そちらの様子は?」
『三人とも予定通り合流済み。アンドロイド兵と交戦中』
「全員、生きてるってことでOKだな」
「トワイライト、
「ならこいつの出番だ」
一はここでKL‐35多目的グレネードランチャーを手にする。これは先ほど制圧した司令部にあった
「食らえブリキ野郎!」
いくら弾道を予測できたとしても、身体が動かなければ意味がない。地下Aホールへ侵入したアンドロイド部隊を一はグレネードランチャー三発で吹き飛ばした。
地下施設全体は戦略爆撃機による大規模爆撃にも耐えられるように設計されており、内部の強度も並外れている。対戦車砲弾やレーザー兵器でも穴が開くことはない。
「さて、これで仕留めたのは何体目だ?」
「さあな……おっと次の部隊は
「スモークでも投げてくるか、それとも数で押してくるか」
「その両方だろうよ」
UCGのマップによるといくつかの部隊が合流している。
「ま、どっちにしろ突撃してくるのには変わらないな」
「ならこっちから
一と響の二人が二階から跳び下り、MK‐54Fを構えた。
〈スイス、ジュネーヴ(国連軍総司令部)〉
フォクトレン実験基地の侵入者(零課)の掃討に派遣されたはずの国連常備軍一個大隊は圧倒的兵力にも関わらず、その優位性は驚くほど速く失いつつあった。700体いたAH‐5Cは約三分の一へ。事態を重く見たアルヴェーン
「やむを
そのためアルヴェーン
「今ので三個小隊ぐらいは倒したろ」
一の足元には中隊長のAH‐5Cが転がっていた。中隊長はカーキ色の
「トワイライト、この先のプランは?」
「とりあえずアーネスト達の援護へ向かうか」
「りょーかい」
『こちらドクター! 基地の自爆カウントダウン開始!』
「何だアンドロイドの
『いや、外部の遠隔操作。あと十分後にこの基地は吹き飛ぶ』
「てっことは、爆破の手間が
「だな」
『何馬鹿言ってるの。皆、脱出急いで!』
〈フォクトレン実験基地 地上〉
基地の爆発により地下は完全に崩壊。生存者はいないと思われた。
「微弱だが反応があるぞ。こちらに向かってくる」
「おい見ろ。
「撃て!」
ヴァイパー中隊は銃を構え、
しかし戦闘スーツによる身体能力向上により、零課メンバーは難なく弾丸を回避していく。これは閉鎖空間である地下と異なり、障害物のない広所のためだった。
「はあ、しつこい連中だな。うるさいから黙っててくれないか」
一の
ヴァイパー中隊最後の隊員が倒れた頃、
『こちらブルーバード7。待たせたな』
「タイミングばっちりだ」
『
「いや、必要ない」
『了解だ』
ブルーバード7の後部ランプが開き、零課員がキャビンへ入っていく。
「スフル、ビル、帰るぞ」
「あ、待って待って」
「乗る乗る」
スフルとビルが空から急降下。そのまま飛び込むようにキャビンの中に降り立った。
〈Rz‐72〝ブルーバード7〟機内〉
「ん? 隊長はまだ帰ってないのか」
一はパイロットに尋ねた。本来なら一達よりも先に任務を終えているはずだ。だが零の姿は見えない。
「ああ。敵の増援と交戦中らしい。ただ少し気になることが」
「どうした?」
「
一は嫌な予感がした。それもかなり嫌な予感だ。
「すぐにセヴァークへ向かえ! 今すぐだ!」
あまりの
〈アメリカ、タレイア州(SOCOM司令部)〉
「おいおい、戦争でもしたのか」
上空から見るセヴァーク空軍基地はまさに〝衝撃〟の一言だった。多数の戦車や装甲車が黒い煙を上げ、地上を覆うアンドロイド兵の
「あそこだ」
一はパイロットに指差して方向を示した。それに従いパイロットが生体スキャンと画面の拡大を行った。
画面には建物の壁に寄りかかって倒れている零。彼女の戦闘スーツはほとんど破れており、その機能を失っていた。身体中に血が付いている。出血量は相当なものだろう。
零の横には左手を失い、サイボーグ骨格が露出したジョーカーが立っている。彼もまた満身
一と直樹、ブライアン、衛生兵がブルーバード7の側面ドアを開け、地上へ跳び下りる。
「あと、あと一撃で……」
ジョーカーは新手に気付き、どうにか零へとどめを刺そうとするが、ブライアンによる狙撃で、その場に崩れた。
「おのれ魔女め……」
その一言を最後にジョーカーは活動を停止した。
「零! しっかりしろ!」
一が
「死ぬんじゃねえ! あんたはこんなところで死ぬような奴じゃないだろ!」
「一か……司令室に行け。隠し金庫に資料がある。全て回収しろ」
「ああ取りに行ってくる。安心しろ。
衛生兵による応急
〈Rz‐72〝ブルーバード7〟機内〉
「無理しやがって」
「一、私を殺すなら今だぞ」
「馬鹿か。くたばり損ないのあんたなんて興味ねえ」
二人のやり取りに周囲は少し驚いた。零課の『
公安零課と公安六課は協力関係というよりも
六課は零課の存在を上層部と一部課員だけが知っている一方で、零課は六課の構成員や武装を大体
零課はそもそも超法規的権限を有し、あらゆる組織に対して情報開示請求や物資
「ゆっくり休め」
「ああ。そうさせてもらう」
零は鎮痛剤の効果で深い眠りへと落ちていった……
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