第7話

しかし王太子様への賠償金というのは意味がわかりませんがどういうことでしょうか。


考えながらわたくしは王太子様と目が合ってしまいました。


「僕も大変迷惑しているんだ。伴侶がこのような罪を犯して、僕は廃嫡に近い立場にいるんだよ。慰謝料なんかじゃ許せないけど陛下の決められたことなら仕方ない」

「も、申し訳ございません。しかしながら採掘権を失うと我が領民は飢えてしまいます。僅かでも残していただくわけには参りませんか」


陛下が玉座の肘置きをドンと叩きました。


「領民全ての命と引き換えても高いと申すか!予が教皇様の怒りを鎮めるためにどれほど苦労したかわからぬとは!」


国王様が怒りを露わにして立ち上がりました。

お父様はただただ平伏するばかりでわたくしは見ていられません。


「申し訳ございません!マリアライトをその条件でお助けください……」


「騒ぎを起こした当人は頭を下げないのか?」


王太子様はわたくしが立っているのが気に入らないようですが、謝ることなど何もないのです。


「お前も頭を下げんか!誰のせいでこうなったと思っているんだ!」


お父様は憎しみを込めた目でわたくしを睨みつけながら、後ろ頭を押さえつけてきました。


わたくしは倒れ込むように手をつき、痛む手首を我慢しながらされるがままになりました。


「心配しなくてもベアトリスには別に罰があるんだ。腐っても王族を極刑にしたなんて醜聞は広めたくないから命までは奪わないけどね」


王太子様は楽しんでいるように見えます。

マリアライトに厳しい処遇を言い渡された後で、私に課せられる死刑ではない罰というのはどのようなものなのか想像もつきません。


『4.ベアトリスは地位を剥奪した上で、レッド・ベリル島へ流刑に処す』


王太子様がそう読み上げました。


レッド・ベリル島。通称「魔の島」


大聖女の結界の外にある島で、住んでいる人はいません。魔族と呼ばれる悪しき者たちが住む「魔界」に通じる門があるとされています。


当たり前ですが建築物や生活道具等あるはずがなく、危険な場所で原始的な生活を行き倒れるまで送ることになります。


そんなところへの流刑というのは事実上の死刑です。わたくしは全身の汗と涙が一気に吹き出してきました。


「お父様!わたくしはなにもしておりません!冤罪なのです!助けてください!お父様!」


わたくしはお父様にすがりつきました。どこか甘く考えていたのです。こんな茶番のような話でわたくしの命まで奪うことはないだろうと。


その瞬間、頬にものすごい衝撃を受けてわたしくしは床に転がりました。


お父様がわたくしの頬を打ち据えたのです。


打たれた頬と身体中が痛くてわたくしは立ち上がれません。ただただ痛みと恐怖に涙が溢れて止まりません。


「うわあああああああああああああああ!」


わたくしは絶叫するように慟哭してしまいました。こんな酷い話があるでしょうか。


「お前のせいでマリアライトの領民は飢えて死ぬかもしれない。許されるなら私がこの手でお前を殺してやりたいくらいだ!」


お父様のあまりに酷い言葉がわたくしに突き刺さります。わたくしは本当に何もしていないんです。神様はいないのでしょうか。誰か、誰か助けてください。死にたくないです。誰か……


ここでベアトリスの意識は途切れてしまった。




殴られた頬はまだ痛むけど、転がされた痛みはマシになってきたので立ち上がった。


この父親酷すぎ。大人の男が16の娘をグーではなくてパーとはいえ思いっきり殴るなんて、訴えられたら勝てないレベルだと思うんだけど。


「流刑の執行は速やかに行え。皆の者ご苦労であった」


王様が閉会を告げて、この茶番は終わりを迎えた。

ベアトリスの父親を含めて誰も私に声をかけることなく部屋を出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る