第6話

もう一度声をかけようとしたとき、目の前の大きな扉が開きました。


お父様が兵士と共に進みだしたので、わたくしも慌てて後に続きます。


奥の壇上の玉座にまだ陛下はいらっしゃいません。段下に王太子様、ユリシーズ様、ローザリア様など多くの人が集まっていました。

陛下の側近や大臣がいるので昨日よりも人がたくさんいます。


王太子様はローザリア様と談笑しています。わたくしは少し惨めな気持ちになりました。

ユリシーズ様は少し面白く無さそうです。


大勢の人に囲まれて緊張してきましたが、お父様がいるので昨日よりは少し気が楽です。お父様の様子がおかしいのが気になりますが。


わたくしたちが到着すると、一度全員が壇上に向かって膝を折って頭を下げました。わたくしもそれに倣います。


静まった部屋にコツコツと足音がしばらく続き、陛下が玉座に座られたようです。


「皆、面を上げよ」


顔を上げるとトルマリン王国第34代国王フィリップ・ハインツ・トルマリン陛下が玉座に座っていました。

王太子様によく似てあまり上背の無い地味なお顔立ちですが、普段はとても優しそうな方です。


その陛下はとても険しい顔をしています。


「マリアライト公爵、委細は聞いておるな?」

「聞き及んでおります陛下。此度は不肖の娘がしでかした不祥事、どのようにお詫びしたらよいか……」


顔は見えませんが、いつも胸を張っているお父様がこころなしか肩が落ちているように見えました。


わたくしは何も悪いことはいていないのに、お父様のこの様子を見ると不安にしかなりません。


「これはもはや王国内の問題ではないのだ。教皇様はたいそうお怒りで、この世界を守護している聖女を害すると言うことは、世界の人々の生活を脅かすものだと息巻いておられる。事態は卿や卿の娘を処分するだけでは収まらぬ」

「何卒、何卒お慈悲を賜りたく!」


お父様は平伏して陛下に懇願し始めました。悲しいことにお父様は全くわたくしを信用していなかったのだとわかりました。お父様が助けてくださるというわたくしの淡い期待は打ち砕かれたのです。


「しかし、我が国は卿の財によって救われたことを予は忘れておらぬ。故に卿の首を刎ねるような不義理を予はしたくない」

「へ、陛下!」


お父様は期待に満ちた声を上げながら頭をあげました。


「それを踏まえてマリアライトへの罰を決めた。心して聞くがよい。アルフレッド、読み上げてやれ」

「かしこまりました」


王太子様が書状を持って私達の前にやってきました。昨日の今日なのに準備が良いことに違和感を感じてしまいます。


半笑いの王太子様がわたくしを一瞥したあと、手にした書状を読み上げ始めました。


『1.マリアライトの宝石の採掘権を剥奪しラピス教会にこれを献上するものとする』


『2.マリアライト公爵家は伯爵家に降格するものとする』


『3.マリアライトが保有する資産の半分を王太子アルフレッドに慰謝料として支払う』


あまりの条件にお父様が言葉を失いました。


「こ、これは……」


宝石の採掘に頼ってきたマリアライトでは他の事業があまり盛んではありませんし、採掘で水や土地が汚れているため農業には向いていません。食料や生活必需品は高い割合で他領から購入していました。


宝石の採掘権が無ければ採掘に関わっていた領民は他領に出稼ぎ、といえば聞こえは悪くないですが、農奴まがいの立場でお仕事をしなくては生きていけません。


教会の採掘事業の手伝いをすればよいのかもしれませんが、大変危険な作業ですのでお父様は作業関係者には破格の報酬を支払っておりました。教会にはそれは望めないでしょう。


爵位と賠償金は涙を飲むしかなくても、採掘権だけは手放してはならないものなのです。

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