第50話 悪徳騎士が現れました!

 城壁の外に掘が掘られると、そこに水道が接続され、水が満たされていく。


 その様子を見て、亜人たちは嬉しそうに声をあげた。


「村の周りに川が! これなら誰が来ても入ってこれねえ!」

「これもヨシュアさんのおかげだ!」


 そんな声が聞こえると、イリアが俺に言った。


「本当にヨシュア様のおかげです……もう、天幕に何かが迷い込んできて、誰かが死ぬということもなくなります」

「いや、イリア。これは皆が力を合わせたおかげだ。それに、この前みたいに空からやってくる敵には、他に対策しないといけないからな」


 とはいえ、ワイバーンの竜騎兵なんて、魔王軍でも少数。

 一万の軍勢に、百騎いればいいほうだ。


 昨日ここに逃げてきたベリックは、付近の魔王軍はそう多くないと言っていた。

 竜騎兵もその分少ないはずだ。


 もちろん他に空を飛べる魔物もいるわけで、油断はできないが。


 俺の隣でメッテが言った。


「具体的には、どう対策するのだ? 我らの弓やクロスボウで十分に思えるが」

「乗り手はともかく、ワイバーンはタフだからな。メッテの撃った矢ならともかく、他の鬼人の矢じゃ一発二発では落ちない」

「なるほど。確かに、私以外のやつはな……」

「ああ。まあ、バリスタやカタパルトの攻撃なら一撃だと思うけど。でも、ワイバーンは意外に動きが速くてな」

「硬くて素早い……ふむ、厳しいな」

「そこでだ。これを見てくれ」


 俺は魔法工房から、紫色のグロテスクな臓物を取り出した。だいたい、頭が三個分の大きさはあろうか。


 案の定、メッテは引くような顔をする。


「ど、どうした、それは? ヨシュアにしては、なんというか……野蛮だな」

「いや、これを武器にするんだ。これはデビルスネークの毒袋でな。以前、廃鉱でイリアとメルクが倒したやつから手に入れたんだ」

「なるほど、毒ときたか。では、その毒袋を敵に投げつければいいわけだ!」

「どっちが野蛮だ……それじゃあ一回投げて終わりだろ。まあ、メッテならできるだろうが」

「じゃあ、これで敵を殴るんだな?」

「もっと難しいでしょ、それ……というより、毒が自分にも飛び散るから駄目だ」


 俺は続ける。


「そうじゃなくて、この中の毒を矢じりに付けるんだ。そうすれば、刺さった奴は麻痺する。ワイバーンは飛んでいられなくなるだろ?」

「なるほど! その手があったか! 狩りでも使えそうだな」

「ああ。まあ、毒を抜かないと肉は食べられないだろうけど……いずれにせよ、この毒を使う場合は皆気をつけてくれ」

「おう!」


 メッテはそう応えてくれた。


 しかし、イリアがこう俺に言った。


「毒ですか。ただ、あまり量がないようですね。もしかしたら、エクレシアさんが他の毒を知っているかもしれません」

「森の植物やキノコに詳しそうだもんな。これだけじゃ毒も少ないだろうし、聞いてみるよ」

「それがいいでしょう! では、早速森からエクレシアさんを……うん、あれは?」


 イリアは西の森から、人狼がでてくることに気が付く。


 人狼は城壁の上の俺たちを見つけると、こう叫んだ。


「大変だ! 西の街道に大量の人間がやってきている! 二千人ぐらいはいた!」

「二千だと!? 奴隷狩りか?」

「いや、なんていうか……皆、やつらよりもびしっとしていた! 鎧や服が黒っぽい感じの、同じものを着てる! 盾も黒で、竜の絵が描かれていた」

「黒い、竜……まさか」


 俺ははっとした。


 黒の服と鎧、そして黒い竜の紋章……シュバルツ騎士団に間違いない。


「前倒したヨシュア様の、お知り合い……その方の身なりと似ている」


 イリアも、以前自分が斬った男ガイアスを思い出したようだ。


 人狼はさらに続ける。


「どうやらやつら、街道で天狗を捕まえているみたいで、手を出していいかエントたちは迷っている! ヨシュアさんの指示待ちだ!」


 エント千体で騎士団を森に引き込めば、互角に戦えるだろう。

 でも、そうすれば天狗も巻き添えになることは想像に難くない。


「どういたしましょう、ヨシュア様?」

「……天狗は解放したいが、エントにも危険が及ぶ。俺が話をつけてくるよ」

「私たちも、後方からご一緒します。森に潜み、めいがあればいつでも戦えるよう」

「心強いよ……でも、決して俺からの指示なしには動かないでくれ」

「かしこまりました」


 イリアは力強い口調で応えてくれた。


 俺は、馬を走らせ西に向かうのだった。

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