第33話 新たな食料を考えました

 皆が再会を喜ぶ中、俺は肉を手早く食し、村の南に向かった。


 解放した亜人の小屋を作るためだ。

 エントは森で寝泊まりするが、鬼人と人狼はそうもいかない。

 すぐに建てる必要があった。


「これで二百軒……こんなもので十分かな」


 俺は村の南方に並んだ小屋を見て、呟いた。


 空から見れば、四角い区画の中で格子状に小屋が並んでいる感じだ。

 これで解放した亜人たちも、ここで夜を過ごせる。


 何度か戦地で兵舎を作ることがあったので、それと同じように建てている。

 簡素な造りだが、寒さに強く頑丈だ。

 しばらく持つだろう。


 周囲の亜人たちは皆、規則正しく並んだ小屋におおと声を上げている。


 メルクや人狼の子供は狼の姿で、屋根から屋根にジャンプして遊んでいるようだ。


 そんな中、俺の隣からイリアが麻の布を差し出す。


「数刻でこんなに作ってしまわれるとは……本当にお疲れ様でした、ヨシュア様」

「イリアこそ、ありがとう……何か、手伝わせちゃって悪いな」


 俺は布で汗を拭いながら、周囲で働いている亜人たちを見る。

 伐採や採掘、狩りだけでなく、昨日の倒した兵士の武具を回収したり、皆仕事をしている。


 決して触り心地がいい布ではないが、彼らを見ているとそんなことも気にならない。


 俺が小屋を建てていると、亜人たちもしばらくして仕事に向かったのだ。


 小屋に使ってくれと、近くまで木材を運んでくれたのも彼らだ。


 皆で仕事してる感じがするな……


 騎士団では誰も俺の仕事を評価してくれなかったし、ウィズ以外誰も協力もしてくれなかった。


 そのせいか俺は今、とても満たされている気がする。


 イリアは首を横に振る。 


「そんなことありません。皆、ヨシュア様の働きに負けないよう、自分たちから動いたのです」


 騎士団にいた頃は、誰も俺の仕事を評価してくれる者はいなかった。

 でも今は、皆が俺の作るものに喜んでくれる。


「それに今日は確かに喜ばしい日ですが、まだまだ油断できませんからね」

「ああ、そうだな。狩猟と採集だけで食料を得るのには限界がある。できれば、畑を作りたいと思ってるんだ」


 といっても、俺に農業の知識はない。

 せいぜい、どの農具がどのように使われるかぐらいしか分からないのだ。


 まず草原の植物を除く必要があるよな……火で焼いて、その後シャベルなり犂(すき)で土を耕して、ようやく作物が埋められるだろう。


 しかしイリアが言う。


「それなのですが、ヨシュア様。実は捕まっていた者が、麦とカブの栽培、とやらのために北部で働かされていたようで」

「おお、じゃあ農業の経験を持った奴もいるってことか。でも、その作物の種を手に入れる必要があるよな……できれば、牛馬も欲しい」


 種も家畜も、すべて自力で手にいれるのは少し難しい。


 コビスが去った後、少し城の周辺を探ってみるか。

 それか南部の都市まで買い付けに行くのも手だな。


 南部では道具や武器がよく売れるはずだ。

 ちょうど鉄も取れるようになったし、作って売ってこようか。

 

「ただ、ちょっとすぐには難しいかもな……そういえば、漁もそろそろ始められそうか?」


 鬼人の天幕には網があった。

 つまり、漁はしたことがあるのだろう。

 それなのにできなかったのは、ヘルアリゲーターやアーマーボアのせいだ。


「はい! 皆、ヘルアリゲーターも簡単に倒せるようになったので、もう河も怖くありません」

「そうか。じゃあ漁網も追加でつくるとして……」


 後は、もっと安全に漁をさせたい。

 橋の周囲や、採石場も監視できるようにしておくとするか。


「それと、近くに塔でも造りにいくかな。アーマーボアや何か来ても、事前に察知できるようにしたい。早速、行ってくるよ」

「私もお供します!」


 俺は村で石材と木材を回収し、イリアと一緒に河原へと向かう。


「……随分、回収できたな」


 どれだけ魔法工房に入るのか、限界を試したくもあった。

 すると、塔一本分の石材はまるまる入ったのだ。


 その後もどれだけ入るか試したかったが、今は塔建造の方が先。


 それに、正直もう眠い。ぱぱっと終わらせてすぐ寝たいのだ。


 塔を建てるのは、もう慣れたものだ。

 特に積み上げるのに時間もかからず、三分ほどで完成する。


「よし、出来たな。一度上がって、どんなものか見てみよう」

「はい!」


 俺たちは、塔に上り展望を確認する。

 河原も見渡せるし、東には採石場、西には村の様子も窺える。

 

「十分だな」

「はい! 南のほうも見渡せますし……うん、あれは?」


 イリアは南の草原のほうに目を留めた。


 俺がその方向を確認すると、土埃が上がっているのだった。

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