第20話 魔石を使った杖をつくりました!
「どー? 似合う?」
メルクは両手を広げ、くるりと回ってみせた。
俺の作ったローブの裾がふわりと揺れる。
黒魔鉄を蛇皮にコーティングしたためか、ちょっと光沢のあるのが特徴だ。
サイズは少しだぼっとしているぐらい。
これからメルクの身長が伸びたとしても、一年ぐらいはこのまま使えるだろう。
イリアはそんなメルクに微笑む。
「似合いますよ。それに鎧とは違い、軽そうですね」
「うん、とっても軽い」
メルクはその場でぴょんぴょんとジャンプしてみる。
「あまり負担にならないよう、そうしたんだ。同じサイズの毛皮よりも軽いはずだぞ。それに、黒魔鉄にマジックシールドもかけているから、ある程度の攻撃も防げる。もちろん、攻撃は避けるんだぞ?」
「うん。メルク痛いの嫌だから、大丈夫」
「そうか。それじゃあ……次はこれだ」
俺は魔法工房で作成していた、黒い杖をメルクに差し出す。
受け取ったメルクは、再び「おおー」と力のない声を上げた。
だが、その目は黒い杖に釘付けであり、ぶんぶんと杖を振ったりしている。
喜んでいるのが窺えた。
メルクは杖の先っぽの緑色の石を触る。
「この先っぽの石が、さっきの魔石?」
「ああ。回復魔法が上達する魔石だ。一応、黒魔鉄自体に回復魔法を使えるようにはしてるから、今ももう魔法は使える。低位魔法だから、いずれ変えたほうがいいだろうけど」
それでも、傷を癒せる魔法が使えるのは大きい。今までは俺だけだったのだから。
「本当? じゃあ、あの馬も治るかな?」
メルクは先ほど奴隷狩りが乗っていた馬を見た。
他の馬と違い、前右脚を骨折したのか、転んでしまった。
立ち上がろうとしても、全然立ち上がれない。
人狼には怪我がなかったようだが、馬は無傷とはいかなかったみたいだな。
俺の回復魔法は低位魔法で、傷口は塞げても、骨折までは直せない。
魔石の効果があるとしても、痛み止めぐらいにしかならないだろう。
「そうだな……少しは楽になるんじゃないかな」
「じゃあ、やってみる」
「そうか。杖を脚に向けて、ヒールって唱えてみて」
「うん、ヒール」
メルクは馬の脚に杖を向けた。
先っぽの魔石が、馬の脚に光を発する。
すると馬はひひんと鳴き、再び立ってみせた。
「おおー。本当に治った」
「あ、ああ。魔石が大きいからかな」
意外だったが、馬は元気になったようだ。
低位の回復魔法ヒールが、骨折を治すなんて聞いたことはない。
これも魔石の力なのかな……
まあ、丹精込めて作ったんだ。
素直に嬉しい。
「ほう、また面白い棒だな。奇っ怪な石がついてて」
メッテはメルクの棒を、不思議そうに見つめた。
今度ばかりは、確かにほとんど棒なので、俺も何も言えん……
「ともかく、これで村の防備も整ってきたな。事実、奴隷狩りを撃退できたわけで、これなら俺がいなくても大丈夫そうだ」
「ああ! 留守はもう、このメッテに任せろ!」
メッテはどんと胸を叩いた。
「それじゃあ、鎧やクロスボウの他にも、道具や武器を作ってみるとしよう。骨も増えてきたし、合成弓(コンポジット・ボウ)……弓も作ってみるか」
「おお、弓か! 私もぜひ欲しい!」
メッテは興奮するような様子でいった。
粗末とは言え、もともとメッテたちも弓は扱っていたのだ。
槍同様、好きな武器なのだろう。
「訓練が必要だが、慣れればクロスボウよりも早く撃てるからな」
「メルクもー」
「分かった」
俺がメルクに頷くと、他の鬼人たちも続々と俺のもとに集まってきた。
「俺も欲しい!」
「俺もだ! お前の武器はなんでも強い!」
俺はそんな皆に「そうあわてるな」と答え、弓を作り始めた。
そんな中、イリアは少し寂しそうな顔をするのだった。
だが俺が視線を送ると、にっこりと微笑むだけだ。
その後、俺は廃鉱に派遣する人物、それを護衛する者たちを決めるのだった。
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