第19話 戦いはもう終わってました!

 見えてきた村から、わあわあという声が聞こえてくるのが分かる。


 連絡にきた鬼人によれば、敵は北からで、結構な人数だという話だった。


 ついに奴隷狩りの本隊が来たのかもしれない──


 俺は一刻も早く戻ろうと、荷馬を走らせる。


 だがイリアが言う。


「ヨシュア様。この声は、多分心配いりません」


 その言葉は間違ってなかった。

 村に近づくに連れ、村の者たちが歓声を上げているのに気が付く。


「これは……」


 村に帰り、北へ行くと、そこにはすでに人間たちが十人ほど横たわっていた。

 彼らの馬と装備は、鬼人たちによって一か所に運ばれているようだ。


 奴隷狩りの亡骸の前に立つメッテは、俺たちに気が付いたのか、振り返った。


「おお、姫、ヨシュア! 皆、帰ってきたか!」


 メッテは俺に笑顔を向けた。全身血塗れになりながら。


「……これは、メッテたちがやったのか?」

「ああ、人狼が追われていたんで助けたんだ。大丈夫、メルク。皆無事だ」


 メッテの言葉に、メルクはほっとした様子だ。


「ただ、一部の馬に人狼の捕虜が乗せられていてな。クロスボウではなく、槍で戦った。私は半分倒したぞ」

「き、騎兵五人を一人でか」


 しかも馬と人狼の死体はない。

 確実に奴隷狩りだけを狙ったのだろう。


「なあに。ヘルアリゲーターよりも楽な相手だったぞ! どんな敵も、どんと来いだ!」


 メッテは己の胸を叩いた。


 しっかりと防備を整えたと思ったが、それが証明されたな。


 だが、ここまで奴隷狩りに死者が出ると、彼らも対策を練ってくるだろう。


 一般に奴隷狩りは、傭兵が務めることが多い。奴隷商人は、傭兵が連れてきた奴隷の数に応じて、報酬を払うのだ。


 彼らがばらばらで行動するのは、狩場を独占したいがために、他の傭兵団と情報共有を行ってないからかもしれない。


 でも、シュバルツ騎士団のガイアスが出てくるぐらいだ。それにメルクの村を襲ったのは二百人の奴隷狩り。

 組織的に奴隷狩りを行っている連中も確実にいるはずだ。そろそろ奴隷狩りが多数殺されているという異変にも気が付くはず。


 そいつらが攻めてきた時が本番だな……


「頼もしいが……あまり無茶はするなよ。いや、メッテの性格だ。せっかくだから、多少無理ができる装備を作るよ」

「本当か!? また、何か新しいものを作ってくれるのか!?」


 目を輝かせるメッテに俺は頷く。


「ああ。この前ガイアスを倒したとき、鎧と兜、盾とメイスを回収しただろう。あれに黒魔鉄ってのが使われていてな。それを使ってみる」


 俺はメルクにも声を掛ける。


「メルクの杖も一緒に、その黒魔鉄と魔石で作るよ。蛇皮に黒魔鉄を混ぜて、ローブも作る」

「やったー」


 メルクはいつもの淡白な口調で喜んだ。


「それじゃあ二人とも、体を測らせてもらうぞ」

「うん」


 そう言ってメルクは、人の姿となる。

 当然、真っ裸。華奢な体が丸見えだ。 


 俺は手で顔を覆いながら言う。


「メルク……服は着たままでいいんだ……すぐに服を着てきて」

「そーなの? 分かった」


 するとメルクは、狼の姿で天幕に向かった。


「まずはメッテから作るか。黒魔鉄となると、やっぱりプレートメイルがいいが……形は今のままがいいか?」


 今のメッテの鎧は、東方の人間が使うドーマル式というラメラ―アーマー。

 鬼人たちの昔の鎧に似ているのだ。思い入れもあるだろう。


 だが、メッテは首を横に振った。


「いや、私は特にこだわらないよ。男たちは、あの形のが好きみたいだけどな」

「分かった。それじゃあ、メッテにはプレートメイルを作るよ。あと、刀も」

「おお、刀! 姫の持っている棒だよな!?」

「ああ、棒じゃないけども……とにかく始めよう」


 俺は風魔法でメッテの体を測ると、黒魔鉄のプレートメイルを作り始めた。


 なるべく動き易いよう、軽量にしよう。できるだけ体型に合わせて作ってみる。


「よし、出来た」


 俺は鎧を地面に立たせてみた。


 黒く体のラインに沿うようなプレートメイル。

 自分で言うのもなんだが、とても美しい形をしている。

 荒々しく暑苦しい印象を受けるメッテだが、これを身に着ければ、そのきりっとした目つきも手伝ってクールな雰囲気になるかもしれない。


「おお! これはまた格好いい! しかし、着せてくれないのか?」

「いや、これだけじゃ着れない。下に着る皮の服や、鎖帷子も作らないと。でも、その前に強度を見たいだろう? クロスボウで撃ってみてくれ」

「確かにどんなものか試してみたいな。よし」


 メッテは近くの鬼人からクロスボウを借りると、それで黒魔鉄の鎧を撃った。


 だが、ボルトは簡単に跳ね返されてしまう。


「クロス棒が効かない!? これはすごいな!」

「射程や距離にもよるけど、鉄のボルトは鉄の鎧を打ち抜くこともできるからな。でも、黒魔鉄の鎧や盾を打ち抜くのは無理だ。それに黒魔鉄の魔力を宿す性質を利用して、この鎧にマジックシールドって言う魔法の効果を付与してる」

「性質、マジックシールド……なるほど、よく分からん」


 メッテは首を傾げた。


「まあ、ともかく頑丈ってことだよ。でも、基本的に敵の攻撃は避けるようにな。それとこれ……黒魔鉄の刀だ」


 俺は同時に作っていた黒魔鉄の刀をメッテに渡す。


「おお、なんと美しい……」


 メッテは黒光りする刀に目を奪われているようだ。


「これも魔法も使えるようになってる。念じれば、火を起こしたりはできるよ」

「ほうほう、それはありがたい。ところで、この刀でこの鎧を斬ったら、どうなるだろう?」

「いや、多分鎧は斬れない。何度か試したことがあるが、黒魔鉄同士だと……うおう」


 俺が斬れないと言った瞬間、メッテは黒魔鉄の刀でいとも容易く鎧を斬ってみせた。


「き、斬れた!? す、すまん! 斬れないっていうから、つい!」


 青ざめた顔で言うメッテは、鎧を元の形に戻そうと、パズルのように組み合わせようとしている。


「いや、また回収すれば直せるから大丈夫だよ。それに……俺の力不足が原因だ」


 いや、これが鬼人の力なんだろう。

 人間では無理だったというだけだ。


 俺は斬られた鎧を回収しながら、メッテに言う。


「まあでも、無敵の鎧はないことは分かっただろ?」

「ああ。鎧に頼るのではなく、自分の動きが重要ということだな。心得た」


 この後俺はメッテの鎧を……悔しいから鉄も合わせ、更に頑丈に作り直した。また、イリアのも合わせ刀の鞘も作った。


 それから、メルクの杖とローブを作成するのだった。

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