第18話 魔石を手に入れました!
「もしかしたら……皆、ヘビを倒したから喜んでいるのかも」
メルクは飛び跳ねるスライムたちを見て呟いた。
ウィズは体を曲げ、頷くような動きをする。
これはいつも俺に見せる肯定の仕草だ。
「なるほど。確かにこんな巨大なヘビが居たら、外出れないもんな……ともかく、戦わずに済んで良かった」
俺はウィズをよしよしと撫でる。
ウィズのおかげで友好的な関係が築けそうだ。
スライムは己が攻撃されるまで、人間を襲うことがあまりないため、よくよく奴隷として人間も用いている。
俺はウィズを奴隷ではなく、相棒として接してきたつもりだが。
そんな中、イリアはデビルスネークの死亡を確認するように、斬り落とした首を刀でつつく。
「もう動かないようですね。しかし、よくこんな大きなデビルスネークが……」
「ここを寝床に、獲物をたくさん仕留めていたのかもしれないな……早く片付けて、鬼人たちを呼んできたいところだが」
ここに放置しては採掘の邪魔だ。
何より腐ると坑道に異臭が充満するだろう。
それにこいつはヘルアリゲーター同様、頑丈な皮を持っている。
肉も美味だと聞くし、麻痺毒は使いようによっては痛み止めに使える。
ぜひ、素材として持ち帰りたい。
イリアが言う。
「もっと人手を呼んできましょうか?」
「この大きさだと、十人以上は必要だ。運んでいる間に奴隷狩りに襲われる可能性もある。一度吸収を試してみるよ」
いや……流石にこの大きさは厳しいだろうな。
体幅は二べートル、体長は十べートルはありそうだ。
この前吸収できた大木の二倍はある。
駄目な場合、切り分けて少しずつ運ぶか。
そう思い、デビルスネークに手をかざすと……
「吸収(アブソーブ)……」
「なんと!? ヨシュア様、さすがです!」
「おおー、ヘビが消えちゃった」
イリアとメルクが声を上げる中、俺は額から汗を流す。
「ま、まじか……」
吸収出来ちゃったよ……一体、どれぐらい俺は吸収できるんだ。
木を集める際に一度、吸収できる量を調べてもいいかもしれない。
「まあ、ともかくこれで運ぶ手間が省けた……うん、これは」
魔法工房でデビルスネークの体を解体している途中、俺はある物に気が付く。
「緑色の石……これは魔石か。久々に見たな」
「魔石? なんですか」
イリアが訊ねてくるので、俺は魔石だけを手に出してみる。
それを見て、メルクが目を輝かせる。
「きれー……」
「宝石のようなものでしょうか?」
イリアの言うように、見た目は緑色の宝石だ。
「まあ、宝石みたいに腕輪や指輪に使ったりもするけどね。でも、これは特別な力……一部の魔物にとって、人間の紋章のような存在なんだよ」
人が紋章によって恩恵を受けるように、魔物もこの魔石によって恩恵を受ける。
魔力を授けたり、何かが上達するようになったりと。
実体のない紋章と異なり、魔物の魔石は実際に体の中に宿る”物”。
しかも個体によっては持ってなかったり持ってたり、大小にもばらつきがある。
魔石を持ってない魔物のほうが多いと言われている。
また、魔石の力の強弱は、その大きさで分かる。
「こいつは大きい……だいぶ貴重だぞ」
この魔石は、俺の拳になんとか収まるほどの大きさだ。
俺が見てきた中でも最高級のものと言っていい。
効果は、その色で判別できる。
「薄い緑色……たしか回復魔法が扱いやすくなる色だ」
回復術師の垂涎(すいぜん)の品であり、大きさによってはそれこそ宝石より高価で売れる。
この魔石は、まさにその高値で取引される大きさだ。
「いいのを手に入れたな。これで杖を作れば皆の傷を癒せるぞ」
魔石は武具や、道具の強化にも用いられる。
また珍しいものは、その魔石だけで効果を発するものがある。
例えば、水を出したり、毒を出したり、はたまた爆発したり……
なかなかそんな物騒なものは出てこないが。
魔石を見るメルクは、俺に言った。
「メルク、それやりたい」
「メルクが? 魔法は使えるのか?」
「ううん。ヨシュアが教えて」
「分かった。イリアもそれでいいかな? 一緒に倒したわけだけど」
俺が問うと、イリアは迷わず頷いた。
「私は全く問題ありません。村のあらゆるものは、ヨシュア様のご自由になさってください。それに私の刀より、メルクの爪のほうが速かったですし」
「俺には見分けがつかなかったよ……」
たしかに全然見えなかったな……いや、イリアの斬撃も俺には捉えられなかったが。
「ともかく、もう少し奥を調べてから鬼人たちを呼んでこよう。皆につるはしの使い方を教える」
俺はこの後、洞窟の奥まで向かった。
行き止まりまでスライム以外の魔物はおらず、これなら安心して採掘ができそうだ。
俺は鬼人を呼ぶと、つるはしで鉱床を叩き、簡単な採掘を教えた。
だが、ウィズがそれを拾い一か所に集めると、他のスライムたちも真似を始める。
スライムたちはどうやら、採掘の運搬に協力してくれるようだ。
こちらも見返りとして、果物や木の実でも分けてあげようか。
鬼人がつるはしの使い方を練習する間、俺は洞窟の外で木材を集める。
入り口に木の扉と、周囲を木の柵を設けるためだ。
そうして一時間が経った後、俺たちは一度村へ帰ることにした。
しかし村へ戻る途中、正面から一人の鬼人が駆けてくる。
「ヨシュア殿! 敵襲だ!」
鬼人の叫びに、俺たちは急ぎ村へ馬を走らせるのだった。
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