第21話 橋を架けました!

「……はっ!」


 メッテは弓で矢を放った。


 標的はクロスボウの時と同じ、五十べートル先の枝。


 矢は見事、枝を倒す。


「おお! メッテ、見事だ!」


 鬼人たちは的を射たメッテを見て、わあわあと声を上げた。


 俺は弓を作ると、鬼人たちに弓の扱いを教えた。

 といっても、俺は弓の達人じゃない。簡単な方法だけだ。


 しかし訓練から一時間。


 メッテはこの一時間で、弓を自在に使いこなせるようになった。

 他の鬼人たちもだいぶ上達は早いが、メッテは別格だ。


 【鬼神】の紋章が関係してるのかな……


 いずれにせよ、ちゃんとした武器があれば、鬼人は人間には負けない。奴隷狩りが二人相手でも勝てる。


 弓の他には、もっと斧や、金槌なんてのも作ってみた。

 俺がいない時も、皆が自分で道具を作れるようにしたいものだ。


 そんな中、俺はさっきからずっとこちらを見ているイリアに気が付く。


「イリア、なんかあったか?」

「い、いえ! ヨシュア様はやはりすごいなと!」

「まあ、なんかあったら何でも言ってくれ。俺ができる事なら、なんでもする」

「あ、ありがとうございます……ヨシュア様は本当にお優しいですね。ずっと、一緒にいられたらいいのに」


 イリアは少し寂しそうな顔をすると、微笑んだ。


 俺は、先程メッテと話していたことを思い出す。


 あの時、『俺がいなくても大丈夫』、そんなことを言った。


 俺がいつかいなくなると、感じたのだろう。


 まあ、俺もこの先どうするかなんて全く決めてない。


 ここで道具や武具を作り続けるか、落ち着いたら当初の予定通り南方の都市へ赴くか。万が一ロイグから戻れと言われても、絶対に騎士団には戻らないが。


 だから、俺はこう答えた。


「いさせてくれるなら、俺はずっといるよ」

「ヨシュア様……」


 イリアは涙ぐむと、俺の両手を取った。


「ヨシュア様、私はずっとヨシュア様と一緒です」


 美女の涙ながらの告白に、俺は慌ててしまう。


「そ、そうだな! ま、まあ、とにかく、自分の家は建てたいかな! それにやっぱり、とにかく城壁があると安心するというか」


 何がとにかくなのか分からないぞ……城壁は確かに、造ろうと思っていたが。


 だが、イリアは俺の両手を強く握って言う。


「では、つくりましょう! 家とその城壁を!」

「あ、ああ。でも家は、とりあえず天幕がある。作るなら、まず城壁かな」

「かしこまりました! でも、城壁とは」

「今、村を囲っている柵があるだろ? あれを岩にして、もっと高くしたものだ」


 今は魔法も使えない奴隷狩りが相手だが、やがて火の魔法を使う敵もでてくるかもしれない。


 木の柵は燃えてしまうが、石の壁はそうならない。


「岩の壁……となると、岩が必要なのですね」

「ああ、でもそこら辺に落ちている石じゃなく、今日行った廃鉱のように、まとまった岩……山というか。地面でもいいんだが」

「なるべく大きく、頑丈なのがいいということでしたら……河原の向こうにとても堅い岩の床が広がっています。中央には四角いくぼみもあります」

「ほう。もしかしたら、採石場かもしれないな」

「早速向かいますか? 案内いたします!」

「ああ、頼む。ただ、河となると……いや、行こうか」

「はい!」


 こうして俺は、イリアと一緒に採石場へ行くことにした。

 メルクも付いてくるかと思ったが、杖で皆の傷を癒している内に疲れてしまったのか、今は天幕で寝ている。

 まあ、回復魔法を使えるメルクが残ってくれるのは安心だ。


 俺は村の集積所にあった丸太を回収すると、馬に乗った。


 イリアが首を傾げる。


「馬で行くのですか? この馬で河を渡れるでしょうか?」

「大丈夫、橋を架けるんだ」

「橋……ですか」

「川の上の道のようなものだよ。というより、イリアたちはいつもどうしてたの?」

「歩いて、ですが?」

「あの急な川を歩いてか……」


 この前メッテと河原に行った際、結構大きな河だったのを覚えている。

 流れも結構激しかったような……


 俺は馬に乗りながら、イリアに言う。


「流されたやつはいなかったか?」

「子供で何名かは……」

「そうか……」


 鬼人の強さには驚かされるが、さすがに子供は渡るのが厳しいか。


「なら、安全に渡れるようにしなきゃな」


 俺は河らに到着すると、馬を降りる。


「ここら辺は、流れが緩やかだな……ここに架けよう。イリア、さすがに橋を架けるのは時間がかかる。しばらく周囲を頼めるか」

「はい! お任せください!」


 イリアはそう言って、刀を鞘から抜いた。


 まあいざとなれば、橋を作るのを中断し、俺も戦うだけだ。


「ビルド──ウッドブリッジ」


 まずは先を尖らせた丸太を川底にぶっ刺し、その上に板を置いていく。

 手すりなんかもつけておこう。


 まあ木製なので、当然に火には弱いし、年を経るごとに腐食していく。

 岩が手に入るようになったら、もっと頑丈な岩の橋も架けるとしよう。


 そうして橋を造っていると、すぐに北からどすどすという重い足音が響いた。


「アーマーボア……もう、嗅ぎつけてきたか」

「あいつは私にお任せください」

「いや、イリア、君は防具を何も……あっ」


 イリアはすぐにアーマーボアを一刀両断した。


 アーマーボアは何が何だか分からない……といった感じではなく、一度立ち止まったようだ。

 その死に顔は、酷く怯えたような顔だった。


 イリアは刀を振って血を払うと、俺に真剣な眼差しを向けた。


「ヨシュア様、お怪我は?」

「いや……どう考えたって、あるわけないでしょ?」

「そうですか。よかったです……」


 うん、この子、やっぱ別格だ。

 それに、戦いになると、ちょっと人が変わるというか雰囲気が変わるというか……


 まあ、そういう紋章なんだろう……


 その後もヘルアリゲーターが数体襲いに来たが、俺は横目でそれを見るだけで、全てイリアが倒すのだった。


 そうしている間に、俺は橋を架け終えた。

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