第3話 鬼人の少女を助けました!
奴隷狩りは皆、息絶えた。
なんとも手ごたえがない。
まあ奴隷狩りなんて、ろくな戦闘経験も積んでないだろう。
俺は腰を落とす女の子に手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「ありがとうございます……助かりました」
女の子は頭を下げるが、とても弱っている。
頭の出血が止まらないらしい。
「待ってろ、今、回復魔法をかける。ヒール」
低位の回復魔法なら扱える。せいぜい、傷口を塞ぐことしかできないだろうが。
女の子の頭に手をかざすと、額の傷口は綺麗に塞がり、出血は収まった。
「……ありがとうございます、本当にありがとうございます」
女の子は何度も頭を下げると、ある一点を見て涙を流した。
視線の先は、奴隷狩りの男……その手にあった長い黒鉄色の角だ。
「君、鬼人(きじん)族か」
「はい……木の実を集めていたところ、いきなり角を斬られ」
女の子は涙ながらに頷いた。
鬼人族は、人とオーガの混血だ。
ほとんど人の見た目をしているが、額から伸びる一本の黒鉄色の角を持つ。
人よりも魔力、体力、腕力に優れており、二百年は生きるとか。
ただ、あまり手先が器用でなく、記憶力も弱いという、オーガの特徴も引き継いでいる。
鬼人族について特筆すべきは、その角だ。鬼角は鬼人族の魔力の源であり、人間に武具の素材として重用されている。
奴隷狩りたちは、女の子の角も狙っていたのだろう。
鬼角は生きた鬼人から取らないと、魔力が損なわれてしまう。
また、人の手足と一緒で、一度離れた角を付け直す手段はない。
鬼人族にとって角は命の象徴とも聞く……悔しいだろうな。
女の子は涙を拭うと立ち上がり、再び俺に頭を下げた。
「申し遅れました、私はイリア。フェンデル族の長です」
たしかこの辺は地図では、フェンデル州と書かれていた。
州名の由来と関係があるのかもしれない。
「イリアだな。俺はヨシュアだ」
「ヨシュア……様ですね。ヨシュア様、この度は助けていただき、ありがとうございます……っ」
イリアはふらふらと立っているのがやっとのようだ。
「イリア、無理はするな……もしよかったら、家まで連れていこうか?」
「だ、大丈夫です。それよりお礼を……あっ」
イリアはついに倒れてしまった。
俺は手を差し伸べ、それを受け止める。
「……送っていくよ。途中でまた襲われるかも分からないし」
「ご、ごめんなさい……お言葉に甘えさせていただきます」
「気にするな。ウィズ、リュックサックを頼めるか?」
後ろから付いてきたスライムのウィズに、俺はリュックサックを渡す。
それから俺はイリアを抱きかかえた。
すると、イリアは顔を真っ赤にした。
「ご、ごめん。背負ったほうがいいかな?」
「い、いえ、このままで何も問題ございません! ……そのまま森に入っていただければ」
「わ、分かった」
俺もなんだか恥ずかしさを感じながら、森へ向かって歩く。
女の子をこうやって抱えたのは初めてだ。しかもこんな綺麗な子を……
って、浮かれちゃいかん。ちゃんと回収しとかないとな。
俺は森に入る前に、男たちの武具に片手を向け、吸収した。
斧が四本、短剣が二本、鉄の胸当てが二つか。
もちろん、イリアの角も吸収する。
イリアはそれを見て目を丸くした。
「い、今、何を?」
「生産魔法だよ。魔法工房に収納したんだ。あとで角は返す。武具ももらえばいい」
「ま、魔法ですか。通りで、先程はあんなことを」
「本当は、戦闘向けの魔法じゃないんだけどね……」
そう言って俺は、男たちの遺体を火魔法で焼却した。
戦で人の死体を見たのは初めてじゃない。
人の賊をこの手で殺したこともある。
こいつらは賊と変わらない……いや、もっとたちの悪い連中かもしれない。
だがどんな相手であれ、蛆がたかる前に焼くのは最低限の敬意。
それに仲間の奴隷狩りがいた場合、遺体が見つかると厄介だ。
この後俺は、イリアの案内でフェンデル族の村へ向かうのであった。
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