第2話 奴隷狩りを狩りました!

 俺はシュバルブルクの城門を出て二週間、街道を南へと歩いていた。


 縦長の形をしたメディウス大陸では、大陸中央の地峡を境に、大きく分けて二つの勢力が存在する。


 一つは北方の人間の国家群。

 もう一つは南方の魔王軍の領地、魔王領だ。


 人間の国家は、魔王軍に対しては一致団結して戦おうという意識を持っている。ただ国家間の戦争も普通に行われているのが現状だ。魔物側も魔王に従わない部族があるらしい。


 そして 大陸中央部では人と魔物による戦が日常的に行われていた。


 すでに今俺がいるこの場所は、大陸中央部にあたる。フェンデル州とか言われてるあたりだ。


 中央部には人間の各国家が共同でつくった軍事都市がいくらか点在しているが、少し離れると、国家に属さない亜人たちの集落があるだけだ。


 俺が南方に向かったのは、その軍事都市で仕事を探すため。


 そこでは侵攻してくる魔王軍と戦うため、多くの戦士たちが集まっている。

 俺の働く場所もあるだろう。


 ……気は乗らないが。


 なんだかもう疲れてしまった。

 本音を言えば、あまり働きたくない。

 十年間必死に働いた結果、幼馴染にクビにされるのだから。

 

 だけど貯金はわずかだし、早めにお金を稼がないと食っていけない。


 俺には資産も人脈もないんだ。

 まあ、生産局で補助要員を務めてくれたスライムのウィズは、後ろから付いてきてくれてるみたいだけど……

 付いてきてくれたんだから、こいつの食事も面倒みないとな。


 まあ、お金は稼げると思う。


 自慢じゃないが、生産魔法の腕には多少自信がある。

 年がら年中、俺は休日なしで何かを作ってきたんだ。


 とはいえ、ずっと騎士団の中で働きづめだったから、他の生産魔法師の技量がどれぐらいかは分からないけど……


 生産魔法とは、様々な属性の魔法を組み合わせた複合魔法だ。


 まず魔法工房と呼ばれる、自分の干渉できる異空間を闇魔法で作り出す。その中に素材となるものを放り込んで、火や水、風……様々な属性の魔法で物を作り出すのだ。


 なので、生産魔法で何かを作るのに、道具や場所はいらない。


 そのおかげで、今俺が背負っているリュックサックの中も、食料がほとんどで身軽だ。ウィズにも何も持たせてない。


 場所も道具もいらない……

 そう聞くと、生産魔法は優れているように思うだろう。


 しかしそれだけたくさんの属性の魔法を扱うわけで、生産魔法には膨大な魔力を要求される。俺も最初は、一日で一本の剣を仕上げるのがやっとだった。

 

 まあ、今は一本作るのに一分、いや、三十秒も掛からないけどね。


 なんにせよ、俺はこれからもこの生産魔法で生きていかなきゃ──

 

 そんなことを思いながら、街道を進んでいたときだった。


 一人の女の子が、西の森から駆け出てきた。


 長い白銀の髪の女の子……見た目からして、年は俺と同じぐらいか。服はボロボロの毛皮を着ており、頭からは血がぽたぽたと流れている。


 女の子は俺と目が合うと、叫んだ。


「助けて……助けてください!!」


 すると女の子の後ろから、軽装の鎧を身に着けた男が四人現れた。手には剣や斧が握られている。


「待ちやがれ、デミ!!」

「このデミ、上玉だ! 角と合わせれば、高く売れるぞ!」

「その前に俺が味見してやる!」

「いや、俺が先だ!」


 男たちは興奮した様子だった。

 デミとは、人間が亜人を呼ぶ時の蔑称。


 これは、奴隷狩り──


 ロイグと揉めた原因であるこの奴隷狩りは、基本的に各国が禁じている。

 奴隷にしていいのは、魔王軍の捕虜だけという決まりだ。


 俺はこの二週間で収まりつつあった怒りに、再び火が付くのを感じた。


 腰に提げていた短刀を取り出し、男たちの前に割って入る。


「やめろ! 奴隷狩りが禁止されているのは知っているだろう!?」

「ああ、なんだお前!? まあいい、見られたからには消えてもらうぞ!」


 そう言って、ひとりの男が斧を振り上げ向かってきた。


 俺はそれを避けると、男の斧の柄を掴む。


「隙だらけだ──アブソーブ」


 俺が唱えると、斧は瞬時に消える。己の魔法工房に送ったのだ


「お、斧が!? ぐっ!?」


 目を丸くする男。

 俺はすかさず、その喉を短刀で切り裂いた。


「斧が消えた……こいつ、魔法を使うのか!? 囲んでやっちまえ!」


 他の男たちは俺を取り囲むように散開すると、武器を構えた。


 その間にも、俺は魔法工房で斧を分解、新たなものに再生成する。


 生産魔法は、一度作った物をレシピ化することができる。

 レシピ化したものは作りたい物を唱えるだけで、自動かつ素早く生産できるのだ。


「クラフト──スチールアロー」


 唱えた瞬間、俺の前に三本の鉄の矢が現れ、男たちに放たれた。


「や、矢が!? ぎゃっ!?」 


 矢は三人の喉を見事射貫く。


 奴隷狩りたちは皆、ばさりと倒れた。

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