生産魔法師、休みなし・安月給のブラック騎士団に追放される~ブラック労働で極めた生産スキルで、楽しくモノづくり、辺境開拓します!~

苗原 一

第1話 ブラックな騎士団に追放されました!

 魔王軍と戦うため組織されたシュバルツ騎士団。

 その領地シュバルブルクの居城の執務室に、怒鳴り声が響く。


「たかが生産職のくせに、団長に意見するのか!?」


 声を荒げたのは、シュバルツ騎士団に入ってまだ二年のヴィリアンだった。


「お前は黙って、団長の言う通り武器を作ってりゃいいんだよ! ヨシュア!!」

「俺は騎士団創設時からのメンバーだ。意見をする権利はあると思うが?」


 俺、ヨシュアはシュバルツ騎士団の立ち上げメンバーであり、生産局の局長だ。


 生産局は、騎士団が魔王軍と戦うために必要な武具やポーションを作成する、いわば裏方である。


 まあ、局とは名ばかりの一人部署だけど……


 生産局に所属する生産魔法師は、局長の俺一人なのだ。

 あとは運搬などの補助要員にスライムが一体所属するだけ。


 だから、騎士団のありとあらゆる武具や道具は、全て俺が一人で生産している。

 睡眠時間が三時間なんて当たり前だ。


 そこに更に、今までの倍の武器を作れと言うのだから、文句も言いたくなる。

 

 だがそれ以上に俺が憤っているのは、最近の騎士団のやり方なんだ。


 俺はヴィリアンを押し退け、椅子に座る団長のロイグに訴えた。


「団長……いや、ロイグ。奴隷狩りなんてどうかしてる。俺たちは、魔王軍と戦うために、このシュバルツ騎士団を作ったんだろう?」

「その魔王軍と戦うために、もっと金が必要なんだよ。だからお前にも、もっと武器を作ってもらう必要がある! どうせお前は給料を上げてほしいんだろ? ちょっと待ってろ」


 給料を上げると言って、実際にあげたことなんかないくせに。


 冷たく返すロイグに、俺は語気を強めた。


「そんなことを言いたいんじゃない……戦うのに金が必要なのは分かる! だが、無抵抗の亜人を捕まえて奴隷にしようなんて、正気の沙汰じゃない! 最近のお前はどうかしてる!」


 この十年で騎士団が大きくなるにつれて、ロイグは変わってしまった。


 ロイグと俺は同郷の幼馴染で、同じく騎士の子だった。


 しかし七歳の時、故郷が魔王軍に襲われ、共に両親を失う。


 それから俺たちは少年兵として、たった二十人程でシュバルツ騎士団を結成し、魔王軍との戦いに身を投じた。


 魔王軍や賊との戦いで活躍する俺たちには、大陸各国から貴族の子弟が仲間に加わり、寄付金が集まった。

 やがて騎士団は、自分たちの領地を持つようにまでなる。


 だが、ロイグはそれが全て自分の功績だと信じているのか、己に反抗的なメンバーを次々と辞めさせてしまったのだ。


 創設時のメンバーは、もう俺とロイグだけ。


 今の騎士団には、ヴィリアンのようなおべっか使いのイエスマンしかいない。


 そして今、金を目当てに各国が禁止している奴隷狩りに手を染めようとしている。


 奴隷売買は金になる。

 ロイグは更なる富を得ようとしているのだ。


 こればかりは俺も我慢ならない。

 自分の作った武器や道具が、そんな非道なことに使われるなんて。


「昔のお前に戻ってくれ……俺たちの使命は、魔王軍から人間を守るためだったはずだ。俺は今の騎士団のためには、もう働きたくない」


 俺の言葉ならロイグは耳を傾けてくれる──そう思った。


 ロイグは呆れたように溜息を吐くと、淡々と言う。


「じゃあ、辞めれば? お前の代わりなんていくらでもいるんだ。生産魔法師なんて、すぐに採用できるさ」


 代りなんて、いくらでもいるか……


 ロイグにとって、俺は戦友ではなくただの生産魔法師に過ぎないようだ。


 そもそも、騎士団を立ち上げたとき、俺は前線でロイグと一緒に戦っていた。俺は戦士だったんだ。


 それが六年前、団員が増えたのでそれぞれの持つ”紋章”によって、騎士団での役割を決めることになった。


 紋章は、人になんらかの恩恵を与えるもので、人なら誰もが持っている。

 【剣聖】なら剣の扱いが巧みになったり、【火魔法師】なら火魔法が上達する。


 俺の紋章は【魔工師】だった。


 生産魔法が上達しやすくなる紋章だ。


 だから俺は、生産局の担当となったのだ。

 その前から騎士団の武具や道具は俺が一人で作っていたが。


 一方のロイグは、貴族なら誰もが羨む【武神】の紋章持ち。


 まだ新興のシュバルツ騎士団が大きくなったのは、このロイグの紋章のおかげで貴族が集まるようになったからともいえる。


 しかしそのせいか、最近は露骨に紋章で人を差別するようになった。


 【魔工師】はありふれた紋章、確かに代わりはいくらでもいるかもしれない。


 でも、俺は騎士団にずっと尽くしてきた──身を粉にして。いつか魔王軍を打ち倒せると信じて。


「俺は……この騎士団に必要ないのか?」

「ああ、俺の方針に従わないやつはいらない。だいたい、生産職のくせに生意気なんだよ! さっさとどっかに消えろ、煤汚れた給料泥棒が」


 給料泥棒だと? 

 俺は騎士団ができてからこの十年、ずっと同じ給料で働いてきた。

 今の騎士団の新人戦士以下の給料で、休みなしでだ。


 一方でロイグは高価な装身具を身に着け、毎日貴族とのパーティーに巨費を投じている。

 ある王国からは伯爵位とこの領地を授かり、巨大な邸宅まで建てた。


 もちろん、寄付金を募るのに接待が大切なのは分かる。


 だが、給料泥棒とはなんだ。


 俺は工房と倉庫で寝泊まりして、毎日パンとスープだけを口にしている。新しい服は滅多に買えず、この服もつぎはぎだらけだ。


 もはや反論する気力もない……こんな奴とはやっていけない。


「そうするよ……」


 執務室を出る俺に、ロイグは何も声を掛けなかった。

 聞こえてきたのは、ヴィリアンや側近の笑い声。


 俺はこの日、十年尽くしてきた騎士団を去ることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る