第7話
「ゆづ、久しぶりー」
待ち合わせ時間ぴったりに現れた蒼ちゃんは、あつーと言いながら日陰に入る。
今日は私、蒼ちゃん、世梨ちゃんの三人で遊ぶことになったのだ。あと一週間で夏休みが終わる。その前に‥‥‥ってことで。
ちなみに、プールの日から予定が合わず、一度も会っていなかった。
「ゆづ、焼けたね」
「久しぶりに会って、一言目それ‥‥‥」
私は呆れる。確かにちょっと焼けたけど。新潟に行くとき、日焼け止め持っていくの忘れたんだよね。
「で、どうなったの、高城とは」
「ええ‥‥‥」
二言目、それ?
「‥‥‥友達以上、恋人未満、的な‥‥‥」
新潟のとき以来、高城くんとそういう話はしていない。お互いに好きだと伝えあったわけではないけれど、前より明らかに連絡の頻度が上がった。新浜さんと付き合っていないとはいえ、好意を寄せている相手の矢印を見ることができないからわからない。私に好意を寄せていると決まったわけではないし‥‥‥でも、一緒に課題したし、花火大会も行ったし‥‥‥結局のとこ、どうなんだろ‥‥‥?
「高城くんのこと、好きだってやっと気がついたの?」
鋭いツッコミを入れたのは、今まで黙っていた世梨ちゃん。
「‥‥‥ノーコメント」
「あ、ずるい」
「世梨ちゃんは浅井くんとどうなったの?」
仕返しと言わんばかりに聞き返す。
「え‥‥‥」
明らかに世梨ちゃんの顔が赤く染まる。これは期待できる‥‥‥?
「‥‥‥花火大会のときから、付き合うことになりました」
「おお‥‥‥!」
蒼ちゃんは知っていたのか、にこにこ驚く様子はない。まあ、私もそこまで驚いてはないけどね。だって両思いだってことは知ってたし。
「お、おめでとう!!」
「ゆづちゃんも、早く付き合えるといいね。‥‥‥あ、あと蒼も」
「あたし、ついでなの?」
こ、心から思ってますっ!!と笑う世梨ちゃん。その笑顔はとても幸せそうだった。
〜蓮斗side〜
「おー高城。遅いじゃないか」
「待ち合わせ時間ぴったりだ、遅くない」
駅前のベンチに座っていた前浜は、スマホから顔を上げた。隣に座る浅井は俺が来たことに気づいているのかいないのか、本から顔を上げない。なんのために集まったのだか。残り少ない夏休み、勉強しようと思っていたから、今日遊ぶ行く気はさらさらなかったのだが、浅井が行くと言い出したから行くことにした。いろいろ聞きたいことあるし。
「で、どこ行くの?暑いんだけど」
「そーだな、どうする?」
「僕、図書館がいい」
浅井はすっくと立ち上がり、先立って歩き出した。
「「ええ‥‥‥」」
しかし、他に場所も思いつかず、俺たちは何も言わずに浅井について行った。
「ふおお‥‥‥天国‥‥‥」
図書館は空調設備完璧で、めちゃくちゃ涼しい。地獄の能力屋とは大違いだ。能力屋はエアコンがなく、活躍するのはストーブだ。しかも冬だけ。夏は地獄、冬はストーブの前以外地獄という最悪の場所。店をあまり開けない理由はそれも一つだ。小夏が来た日、たまたま気が向いて開けていただけ。やっぱつけようかな、エアコン‥‥‥。
浅井はそそくさとお目当ての本棚に向かった模様。前浜は‥‥‥いない。あいつも同じく目当ての本棚行ったのか。俺は周りを見渡して、ちょっと迷った挙げ句、小さい子しかいなくて気が引けたが、絵本のコーナーに向かった。
ちょっと迷って選んだ『どうぞのいす』を取って浅井たちを探すと、空調設備の真下、めちゃくちゃ涼しい机を陣取って、本を読んでいた。浅井はなんだか難しそうな小説、前浜は野球の本を読んでいる。俺は空いていた浅井の前の席に座って本を開いた。
まあ、小さい子向けの本だから、一瞬で読み終える。
あい、はぶ、じゃすと、れっど、でぃす、ぶっく。だな。
「なあ、浅井」
浅井は顔をあげない。こんな静かな図書館で声が聞こえないことはないから、多分めんどくて無視しているのだろう。普段はいいやつだが、自分が集中したいときはとことん無視だな。まあいい。
「お前、山尾とどうなってんだ?」
ポポポッと浅井の顔が赤く染まる。うん、無視してるだけだった。
「つ、‥‥‥付き合ってるよ、花火大会のときから」
「「おお‥‥‥」」
俺は思わず拍手。お互いに惹かれ合っていたことは明らかだったからな。
「まじか‥‥‥浅井、山尾のこと好きだったのか?」
‥‥‥前浜を除いて。そういやこいつ、立花の厚意を無駄にしようとして小夏と大江さんに怒鳴られてたな、プールのとき。かなり鈍感らしい。
「で、高城はどうなの?」
前浜はニヤついている。元好きとのこと聞いて、楽しいのか?俺には理解できん。
「‥‥‥さあ。友達以上、恋人未満、みたいな」
「「ああ‥‥‥」」
前浜は額に手を当て、浅井はわかりやすくため息をつく。なにその反応!?
「あのさあ、多分それ、小夏困ってると思うぞ」
「‥‥‥はあ」
前浜の言葉に浅井は大きくうなずいている。
「いいか?女はな、うじうじした男が一番嫌いなんだよ。さっさと小夏に想い伝えてこい!」
前浜はそう言いながら、図書館の出口を指す。
うじうじした男が一番嫌い、か。
「‥‥‥行ってくる」
俺は浅井に『どうぞのいす』を渡して立ち上がった。
「「検討を祈る」」
「おう!」
「図書館ではお静かに!!」
司書さんの注意も聞かず、俺は足早に図書館を出た。
〜雪月side〜
「あたし、図書館よっていい?読書感想文、まだ書いてなくってさ」
「ええ‥‥‥まだ終わってないの?」
「えへへ‥‥‥」
笑っているけど、あと一週間しかないよ、蒼ちゃん。危機感ないなあと、私と世梨ちゃんは苦笑い。
「小夏っ!」
「‥‥‥た、高城くん!?」
なぜか走ってやってきたのは、高城くんだった。今日、約束してたっけ!?それとも能力石がなにかあったとか!?
「好きだ!小夏が好きだ!」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
はい!?
私は完全に思考が停止してしまう。
「あ、‥‥‥えーっと‥‥‥」
「あたしたち、先図書館行っとくね!ごゆっくり!」
ええっ!蒼ちゃん、世梨ちゃん!!
気まずい雰囲気漂うここに取り残された私は、あたふたとあの、その、と繰り返す。
「‥‥‥小夏は俺のこと、嫌い?」
めめめ、メッソーもない!!ぶんぶんと首がもげそうなほどに首を振る。
「うじうじしてるって前浜に怒られてさ。困らせてごめん。それだけだから」
高城くんはもときた道を帰ろうと振り返ってしまう。
‥‥‥ええ、なにそれ!いきなり告白して、嫌いかって聞いて、ごめんで終わり?訳わかんない‥‥‥。はあ、と溜め息を付いて蒼ちゃんたちのところに戻ろうとしたとき、ふと思った。このままでいいのかな。
高城くんのこと、気になってる子何人もいるの知ってるよ。だって矢印たくさんあったもの。それに、高城くんの気持ちがいつ変わるかもわからない。
『早く付き合えるといいね』
『かっこいい男の子と意識し合ってて』‥‥‥
私はぐっと拳を握った。
「好き!高城くんが、好き!」
高城くんは驚いて、バッと振り返った。
「‥‥‥本当?」
私は静かにうなずく。高城くんはふわふわとした足取りでゆっくりと歩いてくる。私もゆっくりと高城くんの方に歩き出す。
お互いに目があって。
ふふっと笑いあった。
「俺と付き合って、くれますか?」
高城くんはそう言いながら、私に手を差し出す、
「もちろんです」
私はその手を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます