第4話 〜美心side〜
ことの始まりは、あたしたちが離れていった五年生のときだった。
ひょんなことから深澤庶務担当と出会った。庶務はあまり表に出ることもなかったから、深沢庶務担当のことは、名前を知っているくらいだった。
あたしはどうしても、紫夕くんと雪月ちゃんを引き剥がしたかった。もう、そんなことないんだけどね。
深澤庶務担当には、あたしの応援を要請した。‥‥‥何故か?
「深澤庶務担当、言って良いですよね」
「‥‥‥もう終わったことだ、いい」
その『いい』はどちらでとったら良いのだろうか。まあいい。
深澤庶務担当は、雪月ちゃんに好意を抱いていたから。あたしと同じように、仲のいい二人を引き剥がしたかっから。あたしも深澤庶務担当も、気がついていた。紫夕くんが雪月ちゃんに、好意を抱いていることに。まあ、紫夕くんは卒業までなんにもしなかったけどね。
「大江、お前は次の児童会長に立候補しろ」
「‥‥‥え!?」
次の会長は、現執行部にいる雪月ちゃんで決まりだろうと、あたしだけじゃない、栄李副会長やクラスの子も言っていたから、そんな気はサラサラなかった。
「和田が前会長、小夏が次会長になれば、関係を断つことが難しい。引き剥がしたいなら小夏以外が会長になればいい。ただ俺はもう卒業だからな」
なるほど、がってんだ、とあたしは立候補受付に走った。責任者は俺がやると言うので深澤庶務担当にお願いし、残る強いのは雪月ちゃんだけだと、そう思っていたのに。
「立候補者、あたしだけ?」
驚いた。雪月ちゃんは立候補届を出さなかったというのだ。選管(選挙管理委員)が言うには、立候補届を取りには来たのだが、書いて出さなかったらしい。
あたしは無性に腹がたった。一人相撲をしているような、そんな気持ち。結局あたしが会長、指名で副会長に栄李副会長の弟、四年の
結果そんなことは無意味で、紫夕くんは雪月ちゃんに告白して――振られた。そのときは、二人が付き合わなかったという安堵感と、選ばれなかったという孤独感、何をしていたんだという疲労感に包まれた。それはあたしだけじゃなくて、深澤庶務担当もだ。
お互いに肩を落とし、がっかりする。そのまま深澤庶務担当は、中心部の有名私立中学へ、あたしは六年生となり、そこで関係は終わったと思ってた。だってもう、離れちゃったし、深澤庶務担当のいる私立中学なんて行くお金ないし、あと悲しいことに、学力もないし。
一年後、紫夕くんのいる中町中学校に進学した。とはいえ地方だから、顔ぶれはほとんど変わりないんだけどね。あたしと紫夕くんはそれなりに、お互い、三角関係の中心だった雪月ちゃんという『塊』がなくなったことで、ぎこちなさは多少残るものの、あの頃のように『幼なじみ』をしていた。親同士は何も知らないから勝手に夏休みの家族ぐるみ旅行を計画しててさ‥‥‥。
困ったもんさ、あたしも紫夕くんも。
嫌と言えずに結局ついていって、そこで久しぶりに会ったのが、深沢庶務担当だったんだ。
あたしはぽかんとして、開いた口が塞がらなかった。
「久しぶりだな、大江」
あの頃とあんまり変わらなかった、うん。‥‥‥ダサかった。
深澤ファミリーもあたしたちと同じくプールに来ていて、妹ち
ゃん‥‥‥確か二つ下だったと思う。もいた。
帰るとき、深澤庶務担当の妹、
「何してるの、遊ちゃん!?」
「‥‥‥!み、美心前会長‥‥‥!?」
焦った遊ちゃんは、ネックレスを乱暴に手近の机に置くと、脇目もふらずに走り出した。あたしはネックレスを持って、遊ちゃんを追いかけたけれど、すぐに見失ってしまった。深澤庶務担当に連絡したけれど、出なかったんだ。おそらく深澤庶務担当も、雪月ちゃんが来ていることに気がついて、更衣室からなにかを取ってくるように遊ちゃんに指示したのだと思う。
「違うぞ、俺は指示してないぞ。遊が勝手に取ったんだ。それに一応、遊も反省してたぞ」
「深澤庶務担当、そこ重要じゃないです」
雪月ちゃんが突っ込むと、深澤庶務担当はしゅん‥‥‥とうなだれる。
話を戻す。すぐに返そうって思ったんだよ。でも雪月ちゃんのロッカーわかんないし、‥‥‥それに。
雪月ちゃん見て、‥‥‥ずるいって思った。
なんでもうまくいっててずるいって思った。
あたしは、学校でうまくいってないのに。
あたしは、恋もうまくいってないのに。
あたしは、勉強もできないのに。
雪月ちゃんはたくさんの友達に囲まれて、かっこいい男の子と意識し合ってて、勉強だってうまくいってそうで。
そんな雪月ちゃんからなにか一つ取ったって、バチは当たらないって‥‥‥そう思っちゃったんだ。
本当にごめんなさい――。
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