第7話 〜蓮斗side〜
小夏が帰ってすぐのことだ。
俺は店の戸締まりをし、明日発つための荷造りをしていた。
ピーンポーン
インターフォンを鳴らす音が聞こえた。俺は聞こえないフリをして無視をする。どうせ何かの勧誘かなんかだろう。じいちゃんへの届け物かもしれないが、それは知らない。
ピーンポーン
もう一度鳴らしたが、無視だ。
ピーンポーン
‥‥‥しつこいな。
ピーンポーンドンドン!
「‥‥‥んと‥‥‥!」
なんか言ってる?しかも女の声だった。もしかして小夏?戻ってきたのか?
俺の家にはモニターが付いておらず、ドアを開けるかドアの前の穴を覗かないと誰なのかわからない。俺は基本、誰か来ても開けないし穴も覗かない。
ドアを開くと——。
「蓮斗ー!無視するのってひどいー!」
「うわー‥‥‥」
ドアを開けたことを、猛烈に後悔した。
「なんのようだよ、日和」
俺はドアを閉めようとしたが、日和が足を捻じ込んできて閉めることができなかった。
「せっかくさっき来たのに、あの小夏って子に邪魔されたし!」
「仕方ないだろ。てか小夏が先に来てたんだし、邪魔したのはお前のほうだろ」
「んん!なんで幼なじみのあたしが邪魔なの!?」
「幼なじみかどうかは関係ないし、しかもお前、小夏に余計なこと吹き込んだじゃないか」
「余計なことってなによ?」
「俺の彼女だってことだよ。他に何がある」
しばらく言い合いを続け、結局折れたのは日和の方だった。
「話があるのよ、その小夏って子の」
俺はまあいいか、と日和を家に入れた。居間ではじいちゃんが気持ちよさそうに眠っていたのでとりあえず自分の部屋に通した。
「‥‥‥どっか行くの?」
しまった。荷物、片付けるの忘れてた。
「まあ。でもそれは、日和に関係ないだろ」
俺はそう言いながら服などをかばんに突っ込む。あーあ、日和が帰ったあと、たたんで詰め直さなきゃな。
「話ってなんだ?」
俺がそう問うと、日和はポケットから携帯を取り出していじり始める。
なんだ、話ってのは、俺んちに来るための口実かよ。俺は小さくため息をつき、かばんの中からさっき突っ込んだ服を取り出した。
「蓮斗、これだよこれ!」
日和は俺に向かって携帯を突きつける。俺は渋々かばんから顔を上げ、日和の携帯を見た。
「‥‥‥っ」
画面に表示されていたのは、――小夏と夢月の、仲良く肩を並べて歩く姿だった。
「はあ‥‥‥」
俺は一人、ベッドに突っ伏し、枕に顔を押し付けてため息をついた。日和をさっさと追い出し、グッチャグチャのかばんはそのままだ。
「もう、夢月は伝えたのかな‥‥‥」
俺は夢月の『俺、雪月のこと好きなんだよね』という言葉が蘇る。
前浜とのことは、はっきりとは聞いていないけれど、一ヶ月で落とすって言ってたんだし、もう伝えたのであろう。
ぎりりと奥歯を噛み締める。なんだか悔しかった。
夢月と一緒に歩いてたってことは、小夏は夢月を選んだってことなんだろうか。
なんだか、夢月にも、前浜にも負けたような気がする。
‥‥‥いや、小夏をそういう意味で好きってわけじゃないけどさ!?
そりゃ、可愛いし、優しいし、頭いいし、芯があるし、いいなって思うよ!?それにあのときからずっと――。
でもさ!?俺に‥‥‥釣り合わないじゃん。だって俺、ヤキモチすぐ焼くし、勉強だって人並みだし、野球だってこの前監督に中途半端だって言われるし。
‥‥‥なんか、卑屈っぽくなってしまったから、もう考えるのをやめよう。
「いいや、準備準備」
俺は頬をパチンと叩く。ガバッと起き上がり、大きく伸びをした。
ゴキッ
「ぐえ」
俺は腰を抑えてまたもベッドに突っ伏すのだった。
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