第7話 〜蓮斗side〜
「ちょうど良い。小夏もいるし、ここで話そう」
挑発するように、ニマニマと笑う前浜。
「‥‥‥いいだろう」
「‥‥‥えっ」
小夏は逃げようとしていたのだろう。驚いたような声を漏らす。
「俺は、小夏を彼女にしようと思っている」
‥‥‥やっぱりか。いつもだったら、小夏のことが眼中にないかのように振る舞っているのに、今朝はわざわざ話しかけに行ったり、とりあえずなんだかおかしいなとは思っていた。
小夏は気まずそうに前浜と目を合わせないようにそっぽを向いている。なんだか可哀想に見えた。
「でも今は、小夏とは付き合えない。なぜなら、小夏は俺に惚れてないから」
いや、これからも惚れるわけない‥‥‥と思う。
「一ヶ月で落とすから、それまでお前は、一切手出しをするな」
そうきたか。
前浜は、昔から表と裏の差が激しい。女子や先生の前では『いい子』ぶる。おかげで女子からモテモテ、先生からの信頼も厚い。その逆に、女子から好意を持たれていなければ、アタックし続け、落とす。おそらく、何人もの女子が巻き込まれているだろう。小夏もその一人だ。もちろん、男子からの評判は、ものすごく悪い。俺はあまり好かない。
小夏を彼女にしたい前浜にとって、近い存在‥‥‥一番仲のいい男子、俺は邪魔に感じているのだろう。いつかなんらかの障害になるんじゃないかと思って、牽制しているのだろう。
でも、小夏がそんな簡単に落ちるやつじゃないと思うけどな。
「わかった。だけど俺は協力も何もしない。俺には関係ないからな」
‥‥‥でも本当は。
本当は、了承なんて、したくない。前浜に負けたみたいだ。それに最近、なんだか少し‥‥‥。
いや、なんでもない。こんなこと思ったって、小夏にしてみれば、いい迷惑だし。
「小夏、帰ろうか。俺が家まで送る」
前浜は馴れ馴れしく小夏の方により、肩に触ろうとする。
「その必要は、ない」
パシンと高い音がした。前浜の手が、俺ではない誰かによって払われた。
「お前は‥‥‥」
「夢月‥‥‥」
この前の、謎のイケメン、夢月だった。
「俺、雪月のこと好きなんだよね」
夢月はあのときそう、俺の耳元で囁いた。俺の気持ちを見透かされているような、そんな不思議な気持ちになった。
たったその一言だけだったのに、威圧感がすごかった。手を出すな、そう言われているような気さえした。
「雪月、帰ろう」
夢月はそう、小夏に話しかけた。小夏をエスコートするかのように手を取ろうとする。
ここで引いたらきっと、俺は後悔すると思う。俺は咄嗟に、夢月の手を払い、小夏の手を握る。
「行こう、小夏!」
「‥‥‥え!?」
小夏は俺に手を引かれながら慌てて俺の後をついて来る。何度もつまづいてこけそうになりながらも、必死に走る。
‥‥‥前浜には悪いことしたかな。でも前言撤回。やっぱり俺も、自分の気持ちに背を向けることは、したくない。
「「はあ、はあ‥‥‥」」
二人から十分距離が離れ、見えなくなったことを確認。大丈夫だ、追いかけてきていない。お互い肩で息をしながら、だんだんとスピードを落とす。もう小夏の住むマンションは目の前だ。
「ごめん、小夏‥‥‥、勝手に、連れてきて」
「う、ううん、大丈夫‥‥‥」
夢月にも、前浜にも、渡したくない。
あ‥‥‥。俺のものじゃ、ないけどな。
「送ってくれてありがとう、高城くん。また明日ね」
「ばいばい小夏。また明日」
俺は、小夏がエントランスに消えて行くのを待ってから、マンションを後にした。
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