最終話 狂暴妹とブラックアウト

最終話 狂暴妹とブラックアウト


「これは――どういうことなのでしょう? 教えてくださいませ、あいみさま」

「あぁ? 見りゃあ分かんだろーが!」


 見ても分かんないから聞いているのに。

 家に帰ったら先回りの瞬間移動でもされたのかって早さで、狂暴な妹様が部屋にいらっしゃる。

 

 明日学校で、アプリのこととかを聞いてみようと思っていた。

 ――それなのに、それすら許さないかのように部屋に女の子がいる件について。


 それはともかく。


「どうしてですかね?」

「妹をコレクションしたいのはてめえだろ? しゅん」

「いえいえ、言葉が違うだけで恐ろしい意味になっちゃうんですが。コンプリートですよ? コンプ……」

「黙れボケ!!!!」


 何か言えば鉄拳正妻、じゃなくて制裁され間違いを正せば美しすぎる極悪な蹴りが――。

 自分の家が安全と言われていたのは、神話だったのかな。


 神話になられても困る。


「真面目に話をさせていただきますよ? 拳も蹴りもパンチラも勘弁してください!」

「……言え」

「ではでは、お言葉に甘えて」


 理由と言い訳をああだこうだと言わされる前に、先手を取る。

 まず何故にオレの家にいて、オレの部屋にいて、勝手にくつろいでいるうえに蹴りが飛んで来るのか。


 そこをはっきりさせておかなければ、妹への希望が全て水の泡と化す。

 妹が欲しいと思っただけなのに、アプリに指示され、場所限定妹しか出来ないとか酷いじゃないか。


「あいみは、しゅんの妹にされた。それも強制アプリによって。それは分かるよなぁ? あ?」

「――い、いえすいえす」

「じゃあ強制的に片をつけに来たってのは、理解したか?」

「なるほどですね。やっぱりあいみさまも、学校が仕組んだアプリなんかで妹になるのはごめんだったと。そういうことですね?」

「何だ、案外まともじゃねえか。そういうわけだから、お前の妹として”最後”を伝えに来た」


 なるほど。

 全ての元凶であるオレを消しに来たと。


「…………いやいやいやいや!!! 自分の家で死にたくないよ!?」

「死にはしないよ? しゅんくん。ただ、そのふざけすぎた願望と希望を喪失させてあげるだけ……」

「――喪失? え、どうやって過ちをチャラにしてくれるのかな?」

「うん。しゅんくん……わたしとの思い出! ここに来て、ここに!」


 妹じゃなくても彼女でも、中々たどり着けない桃源郷――太ももの上に誘われている!!

 そうか、そういうことか。


 妹設定を無かったことにするけど、せめてもの思い出作りですね、分かります。

 そういうことなら喜んで甘えてしまおう。


 そんなわけで、オレはあいみさまがいざなう太ももの上に頭を乗せた。

 ――が。


「ごろにゃーん! ごろごろ……これぞ至福のひと時! あいみさま、幸せでございます」

「うん。しゅんくん……もう――いいよね」

「何がでしょう?」


 柔肌でスベスベで、至福な太ももの上で鈍い音が響いた。

 ――そして、次に気付いた時、オレは全てをブラックアウトしていた。


 妹をコンプリートなんて夢を見なければ、こんなことにはならなかった。

 あああ、今度は姉に萌える夢を見よう。そうすればきっと――。

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フラれるたびに妹がコンプリート出来てしまった件 遥 かずら @hkz7

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