第9話 力強い妹さまとの血の契約?

「――で、どうするか決めたか? あ?」

「……と申しますと?」

「アプリごとこの手で消されるか、今すぐ学校を去って二度と姿を見せないか……だ」

「いやいやいや、それはおかしいって!」

「ぁ? つまり生き地獄を味わえと……てめぇは鬼畜と認めるわけか?」

「鬼畜だなんて、そんな言葉を使うのは似合いませんよ~?」

「んなことはどうでもいい! 認めるんだな? あ?」


 ううむ何という迫力。まだ名前も何も知らされていない美女子に、こうも選択肢を迫られる日が来ようとは。


 しかし生き地獄というなら、すでに経験中だしこれ以上も以下も味わうこともないだろう。

 ここは素直に返事をして、認めようじゃないか。


「はいはいっ! 認めますであります」

「――くそが」


 もしやパンドラボックス的な認めをしてしまったのだろうか。

 彼女は至近距離で何度も歯ぎしりをしながら、首を何度も左右に振っている。


 そのせいで鼻を何度も往復する彼女の髪先が、強制的にくしゃみを誘発しようとしているじゃないか。

 これは非常にまずいし、よろしくない展開が確定しそうだ。


 しかし、時すでに遅し。


「ふぁっ、ふぁっ……」

「――あ?」

「ふぁぁぁぁっくしょぉぉい!!」

「きゃぅっ!?」


 こうなるともう後戻り出来ない。

 可愛い声が聞こえてしまったが、オレのくしゃみは我慢の限界を超えてしまった。


 そして幸か不幸か、くしゃみの勢いそのままに閉じ込められていたロッカーの扉が、これまた勢いよく開いてしまったのである。


『きゃんっ!!』

『うわったぁ!』


 もしこれで誰かが教室に来ていたらと思うだけで、この世からさようならの挨拶を考えねばならないところだったが、早朝すぎてセーフだった。


 それはいいとして、ロッカーから出たばかりのオレの鼻から、何やらドクドクと熱いモノが垂れている気がする。


 まさか興奮しすぎて鼻血を……などと思っていたが、真実はとても凄惨なものだった。

 まさかオレの血が、彼女の制服を汚してしまうとは。


「えーと……これはどういう――」

「まずはその鼻から潰してやろうと思って、ぶん殴った。それなのに……」

はゃなの痛みは感じないけど真っ赤で熱いものは、キミがやったと!?」

「血が流れた以上、契約するしか無くなった。てめぇの名前は?」

「はゃ、八潮しゅん」

「八潮……しゅん。分かった。それならてめぇ、とっとと早退して家に帰りやがれ!!」

「ええ!? 来たばかりなのに!?」

「――……」


 ――どうやら有無を言わさず、強制送還もとい強制帰宅させるようだ。

 確かに鼻血が止まらない状態のオレには、この場を乗り切る手段は無い。


 しかし何かこう腑に落ちない。

 美味しい思いをした気がしないのは、どうしてなのか。 


 せめて名前を聞いてからじゃないと帰りたくない。


「帰るけど、名前を~」

「――あいみ。早く消えろ!!」


 ほう、あいみさまか。

 これで今日は欠席になっても悔いはない。


 さっさと家に帰ってしまおう。明日からどうするかは家に帰ってからにするとして、アプリのことはもう一度学校側に訴えてみるしか無さそうだ。

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