第7話 手ひどくフラれまくりですが?
始業のチャイムが鳴り響いている。
それなのに、玄関で出迎えてくれたあの子はまだ教室に来ていない。
まさか具合でも悪くしたのだろうか。それとも道に迷って……そんなわけないけど。
オレに対して好意的な女子第一号となった、愛しの大宮みつるちゃん。
心配すぎるし、心配で大人しく着席出来ないぞ。
ああっ、席を立ちたい。だけど担任が来ちまう。どうしよう、どうすれば。
『八潮しゅん! どうしました? 何故一人で立っているのです?』
くそぅ、そうこうしていたら担任が来ちまった。
ここは言い訳しても仕方がないので、潔く認めよう。
『はい、もう居ても立っても居られなくて、ずっと立ちっぱなしになりたかったんで――』
「うっわ、マジきもっ……」「嘘でしょ、我慢できなくて立たせてるとか最低すぎる……」などなど、何やら別の意味で誤解をされておられるようだ。
そっちの意味じゃないのに……潔さをはき違えたのか。
『んんっ……そこまで我慢が出来ないなら、トイレに行っては? それとも保健室に……?』
『ああぁぁ、い、いいえいえいえ!! ひ、一人で行けますからっ!!』
「一人でしろよ、ボケが」「キモオタ帰れ」とか、オタクじゃないんだが。
だから意味が全然違うのに、なんでこうなるんだよ。
ううっ、ちくしょう。こうなったら悔しいけどトイレに猛ダッシュしてやる。
勢い任せに教室のドアを開け、廊下に出て一目散に走りだした。
『うおおおおおおおおおおおおおお!!』
決してトイレに行きたかったわけでもなく、トイレで泣く思いでわき目も振らずに全力疾走。
元女子高ということもあって、男子トイレは端のはじ。
とにかくゴール直前にラストスパートをかけるような選手のごとく、走った。
『――やっ……!?』
『えっ?』
ズドーン……などと、エフェクトに出そうなくらいの衝撃音がお互いに鳴り響く。
見ると見たことのある女子が、オレの顔の真下に存在している。
あれ、これはもしや馬乗りになっているというやつでは。
こんな所を誰かに見られでもしたら、教室での誤解が現実のものとなってしまうじゃないか。
よく前を見ずに全力疾走したオレもあれだが、この女子……大宮は一体どこから出て来たのだろう。
「あのっ――! いつまで鑑賞してるんですか? それとも妄想で自慰でもしてるんですか? どうでもいいけど、さっさと……」
「か、鑑賞だなんてそんな……。妄想でも無いし……というか、みつるちゃんだよね? もう遅刻確定だよ? 今まで一体どこに――」
「――っざけんなよ、この野郎!! 何勝手に『ちゃん』付けで呼んでんだよ!?』
「えぇぇぇ? だ、だって、オレのことが好きって」
「……ああ、そうでしたね。それじゃあ、起こしてもらってもいいですか?」
おぉ、このままの姿勢で何か言うのは色々やばい。
大宮さんの手を掴み、起き上がらせることに成功。
「で、えっと返事のことなんだけど」
「八潮しゅんさん! 目をつぶってくださいっ!」
「え、目を?」
「早くして欲しいなぁ」
これはもしや、キスというサプライズをお見舞いしてくれるのでは。
ドキドキばくばくさせて、その時を待つ。
『ぽげらぁっ!? うげげっ!? な、なん……は、歯が歯が……』
『不意打ちで犯すつもりで待ち伏せとか、最低野郎!! 八潮しゅんなんか、嫌い! 大っ嫌い!! そのまま歯医者に消えろ、バカ野郎!!』
『ぽげげげ!? ひょ、ひょんなぁぁ~』
あれ、悪夢のリピート再生なのかな、これは。
オレのことを好きって言ってくれたのに、気付けば馬乗りくらわして気付けばぶん殴られて。
そしてあっという間にフラれたよ。
しかも歯医者に行けとか、優しすぎるじゃないか。
そのまま帰っていいならそうしたいが、どうすればいいんだ。
そう思っていたら、アプリの通知音。
『八潮しゅんくん、あなたは無事にフラれました。耐性が上がりましたね、おめでとうございます! 二人目の妹が出来るまで、どんどんフラれましょう! 教務課より』
え~……教務課って、どれだけ監視されてんのオレ。
しかも殴られ損だし、あの子は妹じゃなかったみたいだし。いや、普通のことだけど。
フラれまくったらハーレムになるとか、そんなわけないよな。
悔しいけど、歯医者に行くしかない……うう、痛い。心も歯も痛すぎる。
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