第3話 投げ飛ばされてフラれ、そして?

「時川さん! さっきのことなんだけど~」

「――何ですか? というか、勝手に話しかけられても困るんですけど……」


 あれ、おかしいぞ。

 そんなすぐに顔を忘れるほど忘れやすい体質でもないし、間違いなくこの子は時川さんのはず。


 廊下でフレンドリーに声をかけて来て、なおかつフルネームを教えてくれたのに。

 心優しき女子が教室という名のホームポイントに戻ったら、記憶が初期化されるとかじゃないよな。


「君は時川まいか……さん。で、オレは八潮しゅんなわけなんだけど。記憶にございませんか?」

「や、個人情報をどこで調べたんですか? 怖いんですけど……」

「いやいやいや、そんなバカな! 君からオレに直接名前を聞いたし、調べてもいないよ?」

「え、怖すぎるんですけど」


 落ち着け、オレ。席に着席してるからって、顔が変わるとか名前が変わるなんてあり得ないだろ。

 絶対この子が時川さんに違いないし、つぶらな瞳な女子の絶対数は多くないぞ。


 クラスに男がオレだけなのは仕方ない。

 それはいいとして……まさかと思うが女子全員からの協力で、ぼっちデビューさせてもらえるってやつで合意でもされたかな。


 ――って、納得できるか!!

 こうなれば実力行使で行かせてもらおう。もちろん、暴力をふるうとかではなくアプリとか色々見せまくって、丁寧すぎる自己紹介をすれば間違いは起きない。


『時川まいかさん! オレとさっき廊下で話をしたはずですよ? 何度でも言いましょう! オレの名前は八潮しゅん! どう見ても平凡な男でイケメンでもないけど、記憶力は確かですよ? そんなわけで、仲直りの握手を!!』


 まぁ、ケンカしたわけでもないが。

 ここは平和的解決として、こっちから頭を下げながら手を差し出すのがきっと正しい。 


 まるで手刀のように、彼女の前に勢いよく右手を差し出した。

 ――が、


「……分かりました。その手が八潮くんの答えなんですね?」

「そ、そのとおりでっ――ほごぉぁぁぁぁっ!?」


 あ、あれ、何が起こった……。

 時川まいかに友好関係な握手を求めたはずなのに、自分の体が回転した感覚に陥ったぞ。


「やっぱりそうだった!! 女子の体に簡単に触れて来ようとする、八潮しゅん! 好きになんてなるものですか!! 気安く名前を呼ぶな、チャラ男め!」


 ……やっぱりとは、何ぞや。

 握手を求めただけで投げ技をかけられる高校かな?


 しかも早くもフラれてしまったじゃないか。

 教室の床にあお向けで倒れるとか、修羅の国かな、ここは。


 視線の先には女子たちのスカート……なわけもなく、氷のように冷たい眼差しが刺さりまくり。

 元女子高だからって、まさか全員男に免疫が無いとかじゃ……。


『ブブブ……』

 

 ……ん? 通知か。

 オレはマナーモードにしといたスマホを手に取り、通知画面を眺めた。


 そこに通知されていたのは、『1人目の妹が解除されました。おめでとうございます!』という意味不明な文言だった。


 そのまま力尽きたオレは、視線を浴びたまま意識を落とした。

 ザワザワとか、クスクスといった雑音が聞こえて来るも、そのまま眠っていた。


『――あ~ぁ、始まっちゃった。目が覚めたら、覚悟してよね? しゅんにいくん?』

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