この道を追いかけられたら

桃口 優/光を見つけた作家

一章 「言葉にしたいのに」

「私の気持ち、聞いてくれる?」




 たったこれだけの言葉なのに、どうしていつも言えないのだろう。



 

 そこは、私と彼の別れ道。

 学校からずっと同じ道を歩いてくるけど、そこで家の方向が違うから私たちは足を止める。私は左へ、彼は右へと別々の道を行く。

「じゃあまた明日ね」と彼は私の気など知るはずもないから、いつも通りかわいい笑顔で言ってくる。

 そんな笑顔されたら、こっちまで笑顔になる。本人は自覚ないと思うけど、その笑顔だけで胸キュンしてるのだから。

 私、坂口 れなは「うん、まあ明日ね」と出来るだけ自然に返事する。

 私のストレートの髪型が風で少し揺れた。

 まだ秋になったばかりなのに、今日は風が冷たい。

 そして、私の元を離れていく彼の後ろ姿を私はいつもじっと見つめる。

 別れ道から彼の家までは、時間にして5分。

 いつも見えなくなるまで、私は彼を見ている。

 彼が後ろを振り向いてはくれないだろうか。それはどんな理由でもいい。そうすれば、きっと私もその言葉を言える気がする。なんの根拠もないのだけど、そういう気がした。

 いや、今からでも間に合う。追いかけて、いつものように明るく何事もないように話しかければいいのだ。

 ただそれだけなのに…

 でも私には、追いかける勇気がない。

 




 私が思いを寄せる彼、北口 慧(きたぐち けい)と初めて出会ってたのは、小学生のころだ。

 いわゆる典型的な幼馴染で、ずっと学校も同じで、お互いの家もすぐ近くだった。私たちは子供の頃からよく一緒に遊んでいた。

 私たちは今は高2だからもう10年以上の付き合いになる。

 幼馴染がみんな恋愛に発展するのは、マンガなどの世界においてよくあることで、あれはレアなことな気がする。

 だってただ近くに住んでいて、たまたまずっと同じ学校な人なんてたくさんいると思うから。

 もしその法則が有効ならあちこちでカップルあふれかえっているはずだ。

 実際私と慧は仲は確かにいいけど、付き合ってはいないし。

 色々便利にライトになったけど、上手くいかないのが恋というものなのだ。


 私は慧に初めて会った時に、一目惚れした。

 顔がタイプだったからではない。確かに慧は優しい目をしていて、鼻も高い。その整った顔は子供の頃からで、イケメンに十分分類されると思う。

 身長も小学生の頃は私と同じぐらいだったのに、今では慧は175cmと高い。私とは20cmぐらい差がある。

 さらに慧は、勉強もスポーツもできる。

 こんなハイスペックでもてないはずがない。実際クラスでも「慧って、かっこいいよね」と言っている声を耳にする。

 でも私がいいなと思ったのはそういう部分じゃなくて、人一番優しい雰囲気をもっているところだった。その時も慧は転んで泣いている子を先生の元まで連れて行ってあげていた。

 慧は誰に対しても優しい。困っている人がいるとほっておけないタイプの人だ。

 それは私にも該当されることで、慧は幼馴染というだけなのに、いつも優しく接してくれる。

 


 中学生に入ってから、ずっと帰り道に告白しようとしているのに、いつもあの言葉が言えないまま現在に至る。

 私たちは家が近いことから、毎日一緒に帰っていた。

 言うチャンスはいくらでもあった。

 普通の話なら、いくらでも話せる。正直他の女友達よりも、慧に話す方が話しやすい。

「仲ホントいいよね」とか「もう付き合っちゃえば?」とクラスメイトにもいつもちゃかさせるぐらいだ。

 でも肝心のあの言葉となると途端に私は言えなくなる。

 だから、今日も告白失敗記録をまた更新したのだった。

 

 

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