「センパイ、ツンデレですか?」


「はぁぁあああ……」


私は盛大なため息をついて自分の席に突っ伏す。足をバタバタさせながら今朝の事を思い返した。あの後、物凄くいい笑顔で「それでは」と言われてあの凄い歩幅で先に行かれ、置いてかれてしまったのだ。ただ、物凄く面が良かった。ビジュがよかった。だから許せるものの、他のクソ野郎がやったらありとあらゆる手を使ってぶん殴っていただろう。


それをしないのは大好きなセンパイだからだ。よかったな、センパイ。


「また玉砕したの?」


そう言って私の頭を優しく撫でたのは友人の須藤 えみ(スドウ エミ)だ。私のセンパイへの愛を一番理解してくれている、と勝手に思っている。えみは呆れたように微笑むと私の前の席に座って足を組んだ。


「もうやめなって。そのうちストーカーって言われるよ?」


「まだ言われてないからセーフ」


「…言われてやめるタマじゃなさそー…」


えみはそう言うと頬杖をついた。誰かに何かを言われたのだろうか。やや不機嫌そうだ。そんなえみに私は首を傾げた。


「何かあった?」


「アンタに」


「うん」


「客」


「……客?」


私がそう言って傾げた首をまた傾げるとえみは無言で前の方の出口を指差した。その指の先に視線を向けてみるとそこには芸能人じゃないか、と疑うような美青年がいた。

言わずもがな、センパイだ。


「センパイ?!」


「呼ばれてるよ…って。早…」


えみの言葉なんて耳に入ってこなかった。私はやっと主人に出会えた忠犬ハチ公のようにタタタッ、とセンパイの元へ駆け寄る。


「忠犬ハチ公のようですね、あなたは」


「センパイ! どうしたんですか? 私に会いたくなったんですか? そうなんですか? いやー…照れますね、えへへ」


「相変わらずオメでたい頭でなによりです」


センパイは笑顔を絶やさずにそう言うと私に一枚の紙を渡した。一体なんだろう、と見てみるとどうやら今後の部活動の案内が書いてあるプリントのようだ。


「部長が会議などで忙しいので代わりに僕が渡しているってワケです」


「つまり私に会いたかった、と?」


「話聞いていました?」


センパイは小さくため息をついて私の持っているプリントの一部を指差した。


「今週末、足りない物を買いに行くので空けておいてください。ここに足りないものは書いておきました」


「デートですね」


「あなたが毎回買うものを忘れなければ副部長である僕が一緒に行かなくても済むんですけどね…」


「あはは…。それは申し訳ないです」


実際、ちゃんと買った!と自負しても何かしら忘れてしまっているのだからある種の才能だろう。嫌にもなってしまうがセンパイと一緒に買い出しに行けるならこの才能もいいな、と思ってしまう。


「まぁ楽しいのでいいですよ。許してあげます」


「…………。…センパイって」


「はい?」


「ツンデレですか?」


「はっ倒しますよ」



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