第6話

 どんきわまりないしゃざいの言葉がレジナルドののうに浮かんでは消える。

 宝を得られず、フィタを失い、さらには小舟まで手放した。もはやしがない漁師ですらないのだ。妻になんと言って顔向けすればいいのか、わからなくもなるだろう。

 そんなレジナルドの悩みは意外なほどゆうに終わった。家の玄関を飛び出してきたメイの涙と笑顔が、彼の不安一切を吹き飛ばしたからだ。

「レジー!」メイがレジナルドへと抱きつく。「ああよかった……無事に帰ってきてくれたのね」

「ただいまメイ。髪、今日は結んでないんだね」

「つい昨日、フィタが切れたのよ。きっとわたしのお願いが叶ったからだわ」

「そっか」

 安心しきった妻のぬくもりに触れながら、レジナルドは肝心の財宝について切り出す。

「……ごめん、宝探しはだめだったよ」

「そんなことないわ。わたしたちの宝物は、ここにあるんですもの」

 そう言ってメイは「えっ?」と驚く夫の手を引き、自らのお腹にそっと当てさせる。

 レジナルドはまったく気づいていなかったのだ。

 メイだけでなく、彼自身もまた本当に欲していた、価値ある宝を。

「ねえレジー? 探していたものは見つかった?」

「……うん……うん」

 レジナルドの指先に伝わるほんの小さなたいどう

 メイの体に宿った生命のぶきは、やがて父となる男のほおに熱いものを伝わせていた。

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