第4話

 漁できたえられた肉体をもってしても、大砲が相手ではなすすべもなく。

 しがない漁師の小舟はまたたく間にされ、小舟の持ち主である彼もまた海賊船へと連行されてしまった。海賊どもによる刃物の包囲というおまけ付きだ。

(財宝のうわさはこいつらにも届いてたってことか)

 のこのこ宝探しに来たほかの船をおそいながら時間をつぶし、誰かが汗水流して財宝を見つけたらば、ただちにこれをうばう。海賊にとってはあくびが出るほど楽な仕事である。

 したがって、彼らはおおむねそうされている商船のしゅうげきよりリスクの小さい、この海域での待ち伏せをしていたわけだ。

 なお、先に着いていたダレンでなく、レジナルドが見つかったのはまったくの不幸にほかならない。

「財宝はどうした? かくしたって仕方ないじゃろうに」

「見ればわかるだろ! 財宝なんか持ってないし、これから探そうとしてたんだよ!」

 レジナルドのうったえが海上にむなしくこだまする。

 海賊船の船長とおぼしきひげ食い反らす男に、りょしゅうの話を聞こうとするがいは少しも感じられなかった。

「おかしらぁ」半裸の男が船長に近づく。「手漕ぎ舟には水と食料しかありやせん」

(だから言ったんだ。金目の物はなにもないって)

りゃくだつこそが海賊の本分じゃ。少なかろうが根こそぎ持っていけい」

「へい!」

 船長の命令により、海賊船のかんぱんに立つ半裸の男のうちふたりがげんそくらされたなわばしごへと駆けていく。

「それと、さまが身につけているその腕飾りものう」

「なっ――!?」

 名のある宝石ですらない、たかが数個のガラス玉にひもを通しただけのお守りすら奪わんとする海賊の頭に、レジナルドはおどろきを通り越していきどおりを感じさせられた。

「このごうりめ……」

「わしだってあくじゃない。素直によこせば命は助けてやろう」

「誰がお前の言うことなんか!」

「生かして奪うか、殺して奪うかの違いだけじゃ。逆らったって得はせんぞ?」

(これには俺の願いがこもってるんだ。手放すわけには……)

 こうなったらいっそ、フィタだけでも死守するべくしゃにむにていこうしてやろう。

 激情のおもむくままにしがない漁師は覚悟を決めるも、しかしこうに走ることはなかった。

『絶対に、生きて帰ってきてね』

 妻と交わした約束が、すんでのところで彼を思いとどまらせたのである。

(俺はなんて鹿なんだ! 俺を信じて送り出してくれたメイを裏切ろうだなんて……)

 メイの願いは愛する夫のかんであって財宝のかくとくではない。

 本当に守らねばならないもののなんたるかを思い知ったのち、レジナルドは急ぎ左手と口を使ってフィタのむすび目をほどいていく。

 すべては愛する妻のため。

 さりとて、海賊に命をうべくおのが願いを手放すなど、まさにだんちょうの思いだった。

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