第2話

 レジナルドが代々受け継いできたぎの小舟。およそ長距離航行には適さないとはいえ、財宝が沈んでいるという南島付近にたどり着くだけなら実用に難くない。

 宝探しによって漁での収入がえてしまう問題も、わずかな貯金を生活費にてることで対応できる。

 それにもかかわらず、レジナルドの説得を受けたメイは首を縦には振らなかった。

「そんな遠くにひとりで行くだなんて危険だわ」

 そう答えたきり、彼女はまゆくもらせたまま、かまどにかけたなべを見つめるばかりである。

 心配もやむなしだろう。なにせ向かうは常ならけして近寄らない遠洋だ。小舟よりはるかに立派なオランダ商船を沈めた場所とあっては、しがない漁師には荷が勝ちすぎている。

 メイが宝探しに反対するのは、ひとえに大切な夫の身を案じるがゆえだった。

「大丈夫だよメイ。ごらん」

 妻の不安をふっしょくするべく、レジナルドは自身の右手首を差し出す。

「それは」メイは横目を使う。「ビーズ飾りのフィタ?」

「うん。ふたりで選んだ結婚祝いのお守りだよ」

 自然に切れたあかつきには持ち主の願いがひとつ叶う。

 そのような言い伝えを聞かされ、指輪の代わりにポルトガルの商人から買った、打ちひもに似たそうしょくひんである。

「仕事の時でも身につけてるせいか、俺のフィタはもうじき切れそうだ。だったらより大きな願いを叶えに行かなくちゃ」

「そんなこと言って、ただのお守りじゃない」

「けどメイだって信じてるんだろ? 三つみを留めるのに毎日使ってるしさ」

「それは、その、あなたがくれたものだから……」

「俺はメイを幸せにしたい。だからきっと、財宝を手に入れてみせる」

 レジナルドはほおをめるメイに目を合わせる。

 騎士さながらにかたひざをつき、がらにもなく大真面目に表情をこわばらせて。

「こんな俺だけど、どうか信じてほしい」

「……絶対に、生きて帰ってきてね。約束よ?」

「ああ、約束だ」

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