第126話 再会
中年男性を追いかけながら歩いていると、男性はドアの前で立ち止まり、すぐにドアをノックする。
ドアをノックした後、中から返事が聞こえる前に、男性はドアを大きく開け「どうぞ」と言いながら、私を中に入るよう促してくる。
軽くお辞儀をしながら中に入ると、父さんがツカツカと歩み寄り、私の頭をペシっと叩いてきた。
「痛…」
「痛いじゃねぇ! いきなり出ていきやがって! 正月くらい帰って来いっつーの! 4年もプラップラしやがって… 親の顔が見てみたいわ!」
黙ったままカバンから鏡を出すと、再度ペシっと頭を叩かれた。
「いちいち叩くな!」
思わず怒鳴りつけると、奥に居た数人の男性がこちらを見ている。
「ちーじゃん! 誰かわかんなかったよ! うわぁ! 久しぶりじゃん!! スカート履いて、髪も長くて、どっからどう見てもOLじゃん!!」
その中にいた光君は私に駆け寄り、歓喜に近い声を上げながら、肩をバシバシと叩いてくる。
『地味に痛い…』
そう思いながらふと目を向けると、バンテージを巻いた奏介は、立ち上がったまま呆然としていた。
『やっべ… 今会うのは計算外なんすけど…』
慌てて奏介から視線をそらし、父さんに切り出した。
「ヨシ兄は?」
「あいつはチャンピオンだから赤。 それくらい基本だろ?」
「ヨシ兄にチケット貰ったんだけど、こっちって間違いじゃない?」
「チケット見せてみろ」
カバンからチケットを取り出し、父さんに見せると、父さんはチケットを見た後、「ふちが青だから合ってる」とだけ言い、中に居た人たちを全員外に出した。
『置いていくな』
部屋を後にするみんなを眺めていると、背後から奏介の「久しぶり」と言う声がし、振り返ると奏介はベンチに座っていた。
かなり緊張しながら「…久しぶり」と声を出すと、奏介が睨むように見つめながら切り出してくる。
「なんで連絡しなかった?」
『メールだけで泣きまくってたんです!』
なんて事は言えず、「平日の昼間に連絡されても、仕事中で返事できないし…」と言いながらパイプ椅子に座り、カバンを抱きかかえていた。
「仕事終わった後ならできただろ?」
「真夜中にメール来ても返信できないよ」
「日本に戻った後も連絡してたぞ? 何回も」
「…連日、残業ばっかだったから」
そう言いながら奏介の足元を見ると、やっとの思いで完成させた黒と赤のシューズを履いていた。
「そ… そのシューズの開発したんだよ。 そのせいで毎日残業してた」
「これ? …そっか。 千歳が開発したんだ… 通りで俺好みな訳だ」
奏介はクスッと笑い、ジッと私を見てくる。
思わず視線を逸らすと、奏介は「千歳がスカートとヒールで化粧ねぇ…」と言いながらため息をついていた。
「OLですから…」
「OLか… 桜さんちで暮らしてるんだよな?」
「ううん。 半年前から一人暮らし。 そっちは?」
「千歳の部屋で下宿してるよ。 …男は?」
『奏介がいるじゃん』
頭に浮かんだ言葉とは反対に、「…仕事ばっかでそんな暇ない」と言うのが精いっぱい。
奏介はため息交じりに「そっか…」とだけ言うと、自然と沈黙が訪れていた。
聞きたいことはたくさんあるのに、いざ、本人を目の前にすると、何一つとして頭に浮かんでこない。
バレないように小さくため息をつくと、カバンから千切れてしまったミサンガが少しだけ顔をのぞかせる。
なんとなくそれを手に取ると、奏介が「まだ持ってたんだな」と切り出してきた。
「さっき電車で切れちゃった…」
「願い事した?」
「願い事?」
「結ぶときに願いを込めると、切れたときに叶うってやつ。 切れたらすぐに捨てないと、願いが叶わないんだってさ。 向こうのジム仲間が教えてくれた」
「そうなんだ… ストッキング履くのに邪魔で、何回か外したんだけど、それでも大丈夫なの?」
「それはだめだな。 リセットされてる」
「そっか… じゃあ持っててもいいね。 気に入ってるし」
そう言いながらミサンガをカバンにしまうと、ドアが開き、父さんが中に入ってきた。
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