第118話 ひねくれ者

その日の夜。


梨花ちゃんから電話があり、現状を説明したんだけど、梨花ちゃんは秀人さんの知り合いである『倉田さん』に電話を替わり「怪我から復帰した人の意見は貴重だよ」と言われ、その場で卒業後の進路が決まっていた。


「詳しい話は後日しよう」と言われ、電話を切った後に1階に降りる。


そのことを父さんと母さんに話すと、二人は嬉しそうな表情をしていたんだけど、桜ちゃんが「因縁のライバルに娘をあげるんだぁ」と言うと、父さんは急に表情を変え「やっぱりダメだ」と怒り出す始末。


「もうお願いしますって言っちゃったよ?」


「ダメだ! 秀人にはやらん!!」


「じゃあさ、奏介にあげるのとどっちがいい?」


桜ちゃんはからかうような表情で父さんに聞き、父さんは固まってしまう。


父さんは奏介をじっと見て「どっちもダメだ!」と言い切る。


「何でですか! いいじゃないっすか!!」


「ダメだ! お前は海外に飛べ!!」


『海外?』


突然出てきた言葉に驚き、奏介を見ると、奏介の表情はどんどん沈んでいく。


「…海外ってお父さんのところ?」


「後で話す」


奏介はそれだけ言うと、父さんと母さん、桜ちゃんの4人で話し始めた。



数時間後。


部屋でタブレットを使い、シューズのことを調べていると、ドアがノックされ、奏介が中に入ってきたんだけど、奏介は隣に座るなり「さっきの話なんだけどさ…」と切り出してきた。



奏介は光君が付くようになってすぐ、光君から「父親のいる海外に行け」と言われ、カズ兄もそれに同意。


ただ、奏介本人に行く気がなく、「B級ライセンス取ったら真剣に考える」と言うに留めていた。


先月、公式戦で4勝し、B級ライセンスの試験を受けたんだけど、「絶対に落ちた」と思っていたら、午前中、合格通知がジムに届いていた。


この合格を機に、奏介はB級ライセンスが取れたんだけど、光君とカズ兄、そして父さんにまで「海外に行け」と言われ、かなり迷っているようだった。



「今更親父と住めって言われたって無理だよな」


奏介は少し寂しそうに笑い飛ばした。



奏介が海外に?


居なくなっちゃうの?


隣に居られないの?


大好きなのに離れちゃうの?



考えれば考えるほど、胸の奥が苦しくなる…



苦しさを消すように小さく深呼吸をし、奏介に切り出した。


「…行きなよ。 海外」


「え? なんで?」


「世界チャンプになるため」


「でもさ…」


「大丈夫だって。 奏介なら、世界チャンプになれるし、行かなかったら後悔するよ」


「違ぇって。 俺は千歳に『行くな』って言って欲しいんだよ!」


「そう言うのやめてくれるかな? 行かなきゃ後悔するってわかってるじゃん。 絶対に行かなきゃだめだし、わがままで『行くな』なんて、そんな無責任な事言えないよ」


はっきりとそう言い切ると、奏介は悔しそうに拳を握り締め、部屋を後にしていた。



なんで素直になれないんだろ…


なんで思ったことと逆のことを言っちゃったんだろ…



『ひねくれ者』


自分で自分のことをそう思い、大きなため息をついていた。

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