第117話 ヤブ
奏介と朝日を見た数週間後。
父さんに病院まで連れて行ってもらい、ギプスが外れたんだけど、ずっと動かしてなかったせいか、膝が動かしにくい。
何度かリハビリをした結果、夏休みが明けるころには歩けるようになったんだけど、引っかかっている感覚がして痛み、かなり歩きにくい。
新学期が始まると同時に、松葉杖は片方だけになり、父さんは毎日学校まで送迎し、リハビリも毎日行くようになったんだけど、歩きにくさは変わらなかった。
ある日のこと。
ジムの方から桜ちゃんの声が聞こえ、なんとなくジムに顔を出すと、桜ちゃんは智也君のパンチをミットで受けていた。
『気合入ってるぅ』
そう思いながらベンチに座ると、奏介のトレーニングをしていた光君が駆け寄り、「不便そうだな」と切り出してきた。
「だいぶ慣れたよ」
「どこの病院行ってるんだっけ?」
光君にそう聞かれ、病院の名前と大体の場所を伝えると、光君は桜ちゃんを呼び「あの病院ってヤブだよな?」と聞いていた。
「うん。 超ヤブ。 千歳あそこの病院行ってるの?」
「そうだよ。 つーかヤブなの?」
「あたし、あの病院で『ヒビ入ってる』って言われたけど、土手添いの病院行ったら『捻挫』って言われたことあるよ?」
「手術はあの病院でしたのか?」
「ううん。 違う病院。 緊急で近いところに行って、そこに通ってたんだけど、今回は別のところ」
「なら大丈夫かな… 土手添いの病院が一番近いし良いから、そこ行ってみなよ」
3人で話をしていると、父さんが話に入り「奏介、なんであの病院にしたんだ?」と切り出してきた。
「タクシーに乗って、『怪我してるから近い病院に連れて行ってくれ』って言ったんすよ。 どこの病院に通ってるか知らなかったんで、運転手に任せました」
「そうか。 ちー、明日土手沿いの病院行くぞ。 もしかしたら、また走れるようになるかもしれない」
父さんはジムを高山さんに任せ、すぐに支度をすると、車で病院に連れて行ってくれた。
数時間後にはMRIの結果が出たんだけど、靭帯よりも、半月板の損傷が酷らしく、「どうしてもっと早く来なかったんですか?」と聞かれていた。
緊急で手術の必要はなく、炎症もないんだけど、水が溜まっていたため、水抜きをすることに。
「また走れるようになりますか?」
「早く走れるようになるために、一緒に頑張りましょう」
笑顔でそう言われ、小さな希望が膨らんでいった。
処置を終えた後、今までよりもごついサポーターと、薬をもらって帰宅。
そのままジムに行き、病院から言われたことを桜ちゃんに話すと、「やっぱりヤブだ」と一人大騒ぎ。
父さんはホッとしたように「まぁ原因が分かっただけ良かったよ。 ありがとな」と言い、桜ちゃんを夕食に誘っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます