第110話 修学旅行

奏介が優勝した試合の数週間後。


テスト期間を終え、授業中に修学旅行の班決めをし、早苗と美奈、薫君と信也君、そして奏介と同じ班に。



その数週間後、修学旅行に行き、自由時間には班行動をしていたんだけど、早苗と美奈たちは興奮しているのか、歩く速度が速い。


なんとか追いつこうと急ぎ足で歩こうとすると、膝に軽い痛みが走ってしまい、追いつけないままでいた。


奏介は私の隣にぴったりとくっつき、「痛む?」と聞いてきた。


「ちょっとだけ…」と言いかけると、奏介は私を花壇に座らせ、スマホを取り出し、薫君に電話をしていた。


奏介は私のことを伏せ「疲れたし、休んでからそっち行くわ」と言い、隣に座っていた。


「先行っていいよ?」


「置いて行く訳ないじゃん」


「でもさ… このままじゃ全部見れないよ?」


「全部見れなかったら、今度二人で来よう」


優しく微笑みながらそう言われ、胸の奥がキュンっと締め付けられた。



少し話しながら休憩していると、坂本さんが駆け寄ってきたんだけど、奏介は「膝が痛むっていうから休ませてた」と説明。


「もう大丈夫」と言い、ゆっくりと立ち上がると、徹君が駆け寄り「いた! 千歳ちゃん、あっち見に行こうよ!」と言い、私の腕を引っ張ろうとしたんだけど、奏介は私の体を抱き寄せ「痛くて走れねぇんだよ!」と吐き捨てるように言い切る。


徹君は「マジ? 痛むの? どこ? 膝?」としつこいくらいに聞いてくる。


『うざ…』


そう思いながらゆっくりと1歩を踏み出し、膝の調子を確認するように歩き始めていた。



ホテルに帰った後、早苗と美奈が「ごめんね」と謝罪してきたけど、二人は何も悪くない。


「謝ることないよ」と言い切ると、二人は「飲み物買ってくるね。 何がいい?」と切り出した。


「水がいいな。 薬飲みたい」と言うと、二人はいそいそと部屋を後にしたんだけど、数分後、奏介が水を持って部屋の中に。


「あれ? どうしたの?」


「『千歳が痛くて泣いてる』って言うから、慰めに来た」


「誰が泣くか」


「そう言うと思った」


奏介は隣に座り、薬を飲む私の顔をじっと見てくる。


「何じっと見てんの?」


「髪、伸びたな…」


「切りに行く暇ないからね」


「ポニーテールができるまで伸ばさない?」


「ポニーテール? なんで?」


「小学校の時、ずっとジムでポニーテールにしてたじゃん」


「懐かしい話するな」


奏介は私の言葉を聞くなり、嬉しそうに笑いかけていた。



翌日、1日自由行動だったんだけど、奏介は早苗たちに「千歳と二人がいいんだけど」と切り出し、4人とは別行動をすることに。


奏介はずっと私のペースで歩き、時々ベンチに座って休憩したりっと、のんびり過ぎるくらいのんびりと観光していた。


あまりにものんびり過ぎるペースに、申し訳なくなってしまい「行きたいところ行っていいよ?」と切り出すと、奏介は耳元で「ラブホ行きてぇな」と囁いてくる。


「バっ! 何言ってんの!?」


「本当の事じゃん。 行っていいなら連れて行くけど?」


「ダメ! 行かない!」


軽く不貞腐れながらゆっくりと歩き、自然と手をつないで歩き続けていた。

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