第109話 お守り

春休みが始まると同時に、ヨシ兄が社会人となり、一人暮らしを始めるように。


その結果、ヨシ兄の部屋で奏介が下宿するようになったんだけど、私は相変わらずおじいちゃんの家。


春休み中はずっと自宅に居たんだけど、奏介は毎日のトレーニングで疲れ切っているようで、寝る時間がかなり早い。


毎朝4時に奏介を起こし、ロードワークに行く姿を見届けた後、2度寝をしていたため、私の寝る時間が少し遅くなっていた。



春休みを終え、新年度が始まると同時に、教室が変わり、奏介が同じクラスに。


奏介と同じクラスになったんだけど、早苗と美奈の3人で話す事が多かったし、奏介も薫君や信也君とばかり話しているようだった。



帰り際、坂本さんに「部活どうする? 陸上部に籍は置かずにいたから、このままボクシングでいいか?」と切り出されたんだけど、奏介はそれを聞くなり「良い! マネージャー復活させる」と、言い切り、その横で薫君が喜ぶ始末。


「重いものも持てないし、まだ走れないよ?」と言ったんだけど、薫君は「心強いから大丈夫!」と、目を輝かせていた。


ボクシング部のマネージャーに復帰したまではいいんだけど、リハビリがあるため、部活には行けないままでいた。



季節が過ぎ、キックボクシングの春季大会の日にちが決まったんだけど、その日は奏介の試合と同じ日。


公式戦前夜に、梨花ちゃんからラインがあり【明日、対戦相手をボコってきます!】というメッセージが。


すると、奏介から同じタイミングでラインが来て、どちらにどう返信していいかわからなくなってしまう。


一人混乱し、奏介に『負けたら口きかないからね』と送ったんだけど、誤って梨花ちゃんに送ってしまい、梨花ちゃんから【それだけは勘弁してください】というメッセージと、号泣のスタンプが…


何度も宛先を間違えて返信を送り、一人パニックに陥っていた。



翌日。


電車を乗り継いで病院へ行き、そのまま自宅へ。


自室で奏介の帰りと結果を待っていたんだけど、夕方になってもなかなか帰ってこない。


しばらく待っていると、車の音が聞こえ、父さんの上機嫌な声が聞こえてきた。


手すりにつかまりながら1階に降りると、奏介は満足そうな様子で「ただいま」と言い、凌君はその横でいじけていた。


その姿で、どちらが優勝したのかがわかったんだけど、父さんは凌君の肩をたたき「相手が悪かった」と、慰めるような言葉を並べる。


「相手、そんなに強かったの?」と聞くと、奏介が答えてくれた。


「めっちゃやばかった。 つーか、リストバンド忘れていくからこうなるんだって。 前日に準備しとけよ」


「うっかり寝ちゃったんだって! リストバンドさえあれば勝てたのになぁ… 奏介みたく、靴紐をお守りにしようかなぁ…」



『何をお守りにしたって忘れるじゃん』とは言えず、みんなの後を追いかけ、リビングに向かっていた。



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