第111話 相談

修学旅行から戻った数日後、千夏ちゃんの教室に行き、お土産を届けると、千夏ちゃんは私の顔を見るなりいきなり泣き出した。


千夏ちゃんを教室から連れ出し、階段の踊り場で「どうしたの?」と聞くと、千夏ちゃんは私に抱き着いてくる始末。


呆然としたまま固まっていると、千夏ちゃんが切り出してきた。


「星野京香が… 彼に…」


「え? マジで? つーか居たの?」


「ずっと片思いしてたんです。 千歳さんに似てかっこいい人で… バレンタインの時に告白したらOK貰えたんですけど、それを知った途端、彼にずっと言い寄って…」


千夏ちゃんがそこまで言いかけると、背後から「千歳?」と呼ぶ声がし、奏介が階段を上ってきた。


「泣かしてんの?」


「違う。 星野に彼氏を取られたんだって」


「取られてません! 不安で仕方ないだけです!!」


千夏ちゃんの声に驚き、黙っていると、奏介が切り出してきた。


「その相手って同じ学校?」


「ボクシング部の陸人君です…」


「ああ… 陸人か。 陸人が変な行動したら、千歳が黙ってねぇし、陸人は千歳に憧れてるから大丈夫だよ。 それに、星野の悪いところ、全部見てるし、あいつには靡かないよ」


「そっか…」


千夏ちゃんは安心したように私に抱き着き、離れようとしない。


「千夏ちゃん? そろそろ離れていいんじゃないかな?」


「気持ちいいし、落ち着くんです… 千歳さん、何カップですか?」


その言葉を聞いた途端、奏介は「はいはい。 俺のだからあんまり引っ付かないでねぇ」と言い、千夏ちゃんを引きはがしたんだけど、千夏ちゃんはすぐに私に抱き着いてきた。


結局、チャイムギリギリまで抱き着かれ、奏介と二人で教室に戻ったんだけど、昼休みになると同時に、奏介にお願いして、陸人をボクシング場に呼び出した。



ベンチに奏介と3人で並んで座り、『こいつに似てる? うそでしょ?』と思いつつも、陸人に千夏ちゃんの話を聞いていたんだけど、陸人はうんざりした様子で切り出してきた。


「星野京香、マジうざくてシカトしまくってるんすよ。 あいつ、千歳さんの悪口しか言わないし、奏介さんの悪口も言ってて、学がブチ切れて引っ叩くくらいウザいんすよ。 俺、誰に何をされても靡かない自信があるんで、その辺は大丈夫っす」


「それ本気?」


「はい。 相手が誰だろうと、靡かない自信があります!」


「私でも?」


はっきりとそう言いながら見つめると、陸人は私の顔を見たまま固まり、徐々に顔が赤くなっていく。


すると奏介が「からかうな」と言いながら、グローブで頭を叩いてきた。


「たまにはこういうのもよくない?」


「俺だけにやれっつーの。 つーか陸人、千歳になんかしたら、俺が黙ってねぇぞ」


「…付き合ってるんですか?」


「そういう事。 英雄さんに言うなよ? ガチで殺されるから」


奏介はそう言いながら立ち上がり、私の前に右手を差し出す。


奏介の手を握りながら立ち上がると、陸人は「お似合いっすね…」と、呆然としながら言ってきた。


奏介はまんざらでもない様子で「当たり前だろ」と言い、私の肩に腕をのせてきたんだけど、陸人はそれを見て「あの… 手ってどうやって繋いだらいいんですか?」と切り出してきた。


思わず奏介と顔を見合わせると、陸人は俯きながら「初カノなんで、わかんないんっすよ…」と言い、顔を赤らめる。


『何この純情ボーイ… 可愛すぎないか?』


そう思いながらも、顔を赤らめる陸人のことを眺めていた。

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