第97話 文化祭

陸上秋大会を終えた翌週、週末には文化祭が待ち構えているため、毎日のように準備に追われていた。


学校から帰る時間が遅く、帰宅後にはストレッチと筋トレをするだけ。


筋トレを終えた後、必ず右膝を冷やしていたせいか、痛みや疼きを感じることはなかった。



文化祭当日。


普段よりも早い時間に部室に行くと、美奈が「千歳、これ着て」と言い、大きなビニール袋を手渡してくる。


中を見ると、そこにはメイド服が…


「絶対嫌!!」


「嫌じゃない! 着るの!!」


「なんで? 去年…」


と言いかけ、去年、陸上部の開催する喫茶店に行っていないことを思い出した。


「…喫茶店ってメイド喫茶なの?」


「そう! 時間無いから早くして!!」


渋々更衣室に行き、メイド服に身を包んだ。


『めっちゃヒラヒラしてるんですけど… 何でこんなことに…』


鏡に映った自分を見てため息をつき、メイド服の上にジャージを羽織った。


みんなのいる教室に駆け出し、かわいく飾られた教室内にある、パーテーションで間仕切りされた裏側で、千夏ちゃんと一緒に準備をしていた。



文化祭が開始されると同時に、数人のお客さんが入ったようで、注文が入ってくる。


普段のバイトように飲み物の準備をしていると、早苗が「ボクシング部、招待試合に行ったみたいだね」と声をかけてきた。


「そうなんだ」とだけ言い、飲み物の準備に追われるばかり。



みんなは交代で学校内を回っていたけど、準備に追われていたため、一番最後に回ることに。


慌ただしく準備をしていると、早苗が「千歳、お客さんだよ。 香澄ちゃんって女の子。 そのまま遊びに行っていいけど、1時間以内には帰ってきてね」と声をかけてきた。


カチューシャを取った後にジャージを羽織り、廊下に出ると、香澄ちゃんは私を見るなり「いいなぁ! 着たい!!」と羨ましそうに声を上げてきた。


そのまま香澄ちゃんと話しながら、しばらく校内を歩いていると、香澄ちゃんは時計を見て「バイト行かなきゃ…」と、残念そうに告げてきた。


香澄ちゃんを玄関まで見送った後、一人で教室に戻っていた。



翌日も文化祭があり、メイド服を着てバタバタしていると、早苗が表から「千歳にお客さんだよ」と声をかけてくる。


その場を1年の子に任せ、お店に行くと、大きな紙袋を持ったカズ兄が呆れたような表情をしていた。


「なんつー格好してんだよ…」


「メイド喫茶だから仕方ないじゃん」


「ボクシング場に、親父と梨花って子が来てるぞ。 お前待ってる」


「忙しいからいけない」


ハッキリとそう言い切ると、カズ兄は「部長どれ?」と聞いてきた。


美奈を呼び止め、紹介すると、カズ兄は「妹、少しだけ借りていいかな? これ、うちの店で出してるマドレーヌなんだ。 終わったら、みんなで食べて」と、袋を差し出し、光が飛び散りそうなほどの爽やかスマイルを浮かべる。


美奈は一瞬にして顔を赤らめながら袋を受け取った後、「こっちはもう大丈夫なんで、好きなだけどうぞ」と言い、私の背中をグイグイ押してくる。


『汚ぇ…』


そのまま廊下に押し出され、不貞腐れながらカズ兄の後を追いかけていた。

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