第96話 連覇

奏介とヨシ兄はジムに行った後、順番にうちでシャワーを浴び、奏介が悔しそうな声を上げながら、二人で夕食に出かけていた。


声のトーンでどちらが負けたのかがわかり、軽く呆れていた。



翌日は1日バイトが入っていたため、慌ただしく過ごすだけ。


週明けになり、朝のロードワークに出ていると、膝に違和感を感じ、思わず足を止めてしまった。


父さんは自転車を漕ぎながら近づき「どうした?」と切り出してくる。


「たまに違和感出てくるんだよね… 疼く感じ」


父さんは自転車のスタンドを立てた後、「そこに座れ」と切り出してくる。


足を延ばして座ると、父さんは膝を押し「痛いか?」と切り出してきた。


痛みも違和感も感じず「何ともない」と答えると、父さんは次々に膝を指で押し「ここは?」「ここはどうだ?」と聞いてくる。


痛くもかゆくもないことを告げると「疲労かなぁ… 今日、部活休んで医者行け。 怪我なんてしたら連覇できないだろ?」と言われ、放課後、部活を休んで病院へ。


病院でレントゲンを撮ったんだけど、特に異常はなく、まっすぐに帰宅していた。



ジムに行き、父さんにその事を伝えると、父さんは「走るときはサポーター着けとけよ」と切り出され、無言で右手を差し出した。


「なんだよ?」


「買ってくる」


「事務所にあるから吉野から受け取れ」


つれない言葉を聞き、軽く不貞腐れながら1階に向かっていた。



吉野さんからサポーターをもらった翌日。


この日以降、念のため、朝のトレーニングはストレッチと筋トレだけに留めていたんだけど、週に1度、朝日が昇るのを見るために、土手まで走っていた。


おじいちゃんの家まで、走らなければならないのは相変わらず。


サポーターを巻いて走っていたんだけど、違和感を感じることもなく、ごくごく普通に走っていた。


部活は週4日あるんだけど、サポーターを着けているせいで、周囲は不安そうな声を上げていた。


新しく部長になった美奈は「違和感を感じたらすぐに休んで」と言い、後輩たちに指示を出す。


休憩中には、膝を冷やしながら、美奈の姿を見て、ただただ感心していた。



数週間後。


陸上の秋季大会があったんだけど、膝の違和感もなく、体調もバッチリ。


更衣室で着替えた後、早苗に髪を結わいてもらっているときに切り出した。


「7分切ったら奢ってくれる?」


「バケモンか!! 9分切ったらご褒美あげるよ」


「何くれんの?」


「チュー。 誰のとは言わない」


「棄権するわ」


冗談を交えながら話していたんだけど、このおかげでリラックスすることができ、気合十分のままスタート地点へ向かう。


足首を回しながら待っていると、聞き覚えのある声が聞こえ、視線を向けると父さんとヨシ兄、そして奏介と部長の姿が視界に飛び込んだ。


『珍しい…』


ふっと息を吐いた後、「よーい」の掛け声と同時に体勢を低くし、スターターピストルの音と共に勢いよく駆け出した。


膝に違和感を感じることもなく、勢いよく走り切り、9分02秒のタイムで堂々の1位に。


息を切らせながらみんなの方を見ると、早苗と美奈たちは飛び跳ねながら喜び、父さんたちもガッツポーズをしていたんだけど、奏介だけは寂しげな表情をしていた。


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