第90話 ミサンガ
早苗の家に泊まった翌日。
朝から買い物に行き、結局、黒いフリルビキニとデニムショートパンツがセットになった水着を購入した後、昼過ぎには自宅に戻っていた。
水着の入った袋をテーブルの上に置き、ストレッチをしていると、ドアがノックされ、奏介が中に入ってくる。
なにも話しかけることなく、ストレッチをしていると、奏介はテーブルの上に置かれた袋を手に取り、中を覗き込んだ。
「水着、買ったのか?」
奏介の質問に何も答えず、ストレッチをしていると、奏介は苛立ったように袋を持って部屋の外に行こうとした。
「返してよ」
「なにこれ? こんなフリフリしたの着ようとしてんの?」
「奏介には関係ないじゃん。 大体、トレーニング来たんじゃないの?」
「光君が急遽来れなくなったからオフ」
奏介はそれだけ言うと、袋を持って部屋を後にし、慌てて奏介の事を追いかけたんだけど、奏介は袋を抱きかかえたまま靴を履いた途端、勢いよく走りだしてしまい、走って追いかけていた。
そのまま奏介の家についてしまい、息を切らせながら「返して」と言ったんだけど、奏介は耳を傾けずに家の中へ。
奏介を追いかけ、家の中に入ると、奏介はいきなり「着ろよ」と切り出してきた。
「嫌だ」
「じゃあ返さない」
「返してって」
「じゃあ着ろ」
お互い一歩も譲らず、『返す』『返さない』で言い合っていたんだけど、ふと目を向けると、テーブルの上には何十本ものミサンガが置いてあった。
「…それ、どうしたの?」
恐る恐るそう聞くと、奏介はテーブルの上に袋を置きながら切り出してきた。
「作った。 千歳に似合いそうな色を考えながら作ってたら、こんな数になっちった。 何色が好きかとか、そう言うの聞いてなかったしさ。 赤いグローブをよく使ってるから、赤かな?とも思ったんだけど、たまに青も使ってるし、黒いTシャツもよく着てるし、タオルは白だし、ブラは水色だしさ。 これとか似合いそうだなって思ってるんだよね」
奏介はそう言いながら、私の左足に赤と白の細いミサンガを当ててくる。
「彼女いるくせに…」
「その彼女に作ったんじゃん」
「試合に負けたから彼女じゃないじゃん」
「負けてねぇよ。 あんなの反則だろ? 反則した時点であいつの負け。 何を言われようが、俺の彼女は千歳だけ」
本当に信じていいのかな?
本当に奏介の事、信じてもいいのかな?
本当に、奏介と付き合ってもいいのかな?
このまま、奏介のことを好きでいていいのかな?
赤と黒と白がいびつに並んでいるミサンガを手に取ると、奏介は「それ失敗したやつ。 こっちの方が綺麗にできてるよ」と言いながら、違う色のミサンガを差し出してくる。
「いいよ。 失敗したやつで」
「でもさ…」
「これでいいって言ってんの!」
そう言った後、水着の入った袋を奪い取ると、奏介は私の腕をつかみ、唇を重ねてくる。
ゆっくりと唇を離した後、奏介が囁くように切り出してきた
「…印付けたい。 脱がしていい?」
「痛いから嫌」
視線をそらしながらそう言うと、奏介はTシャツを捲り上げ、胸元に吸い付き、いくつもの印を作り上げる。
『独占欲の現れか…』
そう思いながらも、いくつもの印を作り上げる頭を眺めていた。
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