第89話 心理

奏介に歯形を付けられた後、すぐにバイトに行き、忙しなく動いていた。


バイトを終え、夕食を食べた後にシャワーを浴び、自室に行くと、スマホが点滅していた。


『奏介?』と思いながら液晶を見ると、そこには早苗からラインが来ていて、美奈と3人のグループラインが作り上げられていた。


早苗の〈千歳、いつ水着買いに行く?〉と言うメッセージの後、美奈の≪早い方がいいよね≫と言う返事がついていた。


『ごめん。 行けなくなった』


〈え? なんで? バイト?〉


『諸事情で』


≪奏介君になんか言われたんでしょ? 超キレてたもんね≫


『そんな感じ』


そう返信をした後、大きなため息が零れ落ちた。


すると早苗が〈じゃあ、今度うちに泊まりに来てよ。 女子会しよ〉と切り出してきた。


スマホを持って父さんの元へ行き、その事を言うと「本当に女子会だろうな?」と疑う目で見てくる。


黙ったままスマホを差し出し、早苗のアイコンを見せると、ヨシ兄はそれを横から覗き込み「え? かわいくね? 俺も行っていい?」と言ってくる始末。


「絶対無理」と言った後、父さんの了承を得て、早苗に返信をしていた。



翌日も、奏介は私を部室に引きずり込んで噛みつき、歯形は色を濃くし続ける。


部活のない日は、私の部屋に来て、歯形を付けて帰宅。


「辞めてほしい」と言ったんだけど、奏介は「印が消えるから」と言い、毎日のように歯形を付け続けていた。



早苗の家に泊まりに行く日。


カズ兄が作ってくれたケーキを持って早苗の家に行き、ケーキを食べながら3人で話していた。


早苗と美奈は、奏介と私の間に起きたことをなんとなく知っていたようで、詳しい話を聞いた後、二人は「あのマネージャー、厄介だね」と、納得するような口調で言っていた。


「で、どうして水着買いに行けないの?」と美奈に聞かれ、Tシャツの首元を引っ張って歯形を見せると、二人はドン引き。


早苗はすぐにスマホをいじり、納得するような声をあげていた。


「『胸元にキスマークを付ける行為は、独占欲・征服欲と言った心理の表れです。 強めに噛んだり、歯形をつけるように噛む彼は、彼女に対して独占欲があふれています。 彼女の体に自分の痕跡を残したいと思う感情は、「自分のもの」という印を刻んで、ほかの男性に手を出させないようにする、マーキングに近い感覚。 彼はあなたが自分から去っていくのでは、という不安を感じているのかもしれません』だって。 心当たりある?」


「ある… つーか、印がどうのって言われた…」


そう言った後にため息をつくと、美奈が「けど、噛むってねぇ…」と呟き、早苗が切り出してきた。


「千夏ちゃんが言ってたんだけど、あの子、中学の時、周りが止めてるのに、奏介君にしつこく言い寄ってたんだって。 卒業したら収まったんだけど、今度は違う同級生にしつこくしてたみたい。 その同級生、彼女持ちだったんだけど、星野が原因で別れたんだんだって。 星野、泣いてる元カノを見て、ゲラゲラ笑ってたみたい。 クズで有名で、裏で破壊神って呼ばれてたって。 優越感に浸りたいだけだから、泣けばすぐ居なくなるんじゃない?」


「泣けばねぇ… どうやって泣けばいいか、わかんないんだよなぁ…」


ため息交じりにそう言った後、なぜか無性に奏介に会いたくなってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る