第88話 印

翌日の部活の最中、黙々と走り続けていると、千夏ちゃんが「千歳さ~ん! 休憩でーす!」と大きな声で呼びかけてくる。


『名指し…』と思いながらも、千夏ちゃんの元へ駆け寄ると、千夏ちゃんは当たり前のようにタオルを手渡してきた。


「サンキュ」とだけ言った後、顔をゴシゴシ拭いていると、美奈が「千歳さ~ん! 男らしいです~」と、ふざけた口調で言ってくる。


「なんだそれ」と言いながらも、みんなと冗談を言いながら笑い合っていた。



部活を終え、みんなと更衣室に行こうとすると、徹君が駆け寄り「千歳ちゃん、今度みんなでプール行こうぜ」と切り出してきた。


「プール?」


「そそ。 男子陸上部の奴と、女子陸上部の奴で行こうって話になったんだ。 この前のカラオケ、来なかったろ? プールなら来るかなって思ったんだけど、どうかな? 有酸素運動になるし、水中の方が、陸上よりも関節に負担をかけないトレーニングできるし」


「水中トレーニングかぁ…」


小さく呟きながら考えていると、突然背後から「行かない」と言う奏介の声が。


ビックリして顔を見ると、奏介は私の顔を見て「行かない」と、言い切っていた。


徹君が「奏介には聞いてねぇよ」と言ったんだけど、奏介は「行かない」と言うばかり。


『何勝手に決めてんの?』


そう思うとイラっとしてしまい、徹君に「行く」と言った後、早苗に「水着買いに行くの付き合って」と切り出した。


早苗は「うん! いいよ! 千歳の隠れナイスバディ、拝みに行かなきゃね」と、ふざけた口調で言い、美奈も「際どい水着着せようよ。 貝でいいかな?」と、悪乗りを始める始末。


「せめて布製にして」と言いながら、3人で更衣室に向かっていた。



話しながら制服に着替えた後、二人に「バイトだから先に帰るね~」と言い、更衣室を後にすると、奏介とすれ違ったんだけど、奏介は私の腕を掴んでボクシング部の部室へ。


部室に押し込まれた後、壁に押し付けられてしまったんだけど、奏介は苛立った表情で「なんで勝手に行くとか言ってんの?」と切り出してきた。


「別によくない? 付き合ってないんだし」


「別れてねーよ」


「二股してんな」


「してねぇよ。 あいつとは付き合ってない」


「は? 約束破るつもり?」


「凌から聞いたんだろ? 負けを確信したって」


「けど負けたのは奏介じゃん」


「黙れ」


奏介はそう言った後、唇で唇を塞いでくる。


奏介は唇を重ねながらワイシャツのボタンを一つ外し、首筋を伝い、唇を胸元に落としてきた。


『は? ここで??』


必死に抵抗したんだけど、奏介の唇は胸元でピタッと止まるなり、いきなりガブっと噛みついてくる。


「痛っ… 痛いって! やめっ!!」


どんなに抵抗しても、奏介は噛みつくのをやめず。


痛みに堪えながら抵抗していると、奏介はやっと唇を離し「これで行けなくなっただろ?」と、苛立ちながら切り出してくる。


胸元を見ると、そこにはハッキリとした歯形が…



「…こんなことして楽しいの?」


「楽しかねぇよ。 千歳は自分で思ってるより断然モテんだぞ? だったら、俺のもんだって印付けるしかねぇだろ?」


「すげーバカ」


そう言った後、部室を後にしようとすると、奏介は私の前に立ち塞がり「俺にもつけろよ」と言ってきた。


「は? 本物のバカなの?」


「いいから!」


「良くない。 ジムで試合があったらどうすんの? 歯形付けて、上半身裸でリングに上がるつもり? ちょっとは考えて行動しろっつーの」


そう言いながら奏介を押し退け、部室を後にしていた。

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