第73話 勝敗
翌日。
朝から父さんの運転する車に揺られ、桜ちゃんが受けるプロテスト会場へ。
父さんと話しながら車に揺られていると、スマホが震え、奏介からラインが来ていた。
【これから第1試合行ってくる。 作戦は?】
〈全力で突っ走れ〉
【雑!】
短い会話の後、父さんに「奏介、これから第1試合だって」と伝えると、父さんは「なんで同じ日なんだろうな…」と、ぼやくように呟いていた。
30分もしないうちに奏介からラインで【勝った! 判定勝ち!!】とのメッセージが。
そのことを父さんに伝えると、父さんは「当然だろ!」と言いながら、嬉しそうに微笑んでいた。
会場に着くと同時に、父さんは桜ちゃんのもとへ。
一人、会場にある席に座り、周囲を眺めていると、桜ちゃんが私に気が付き、合図を送るように微笑んでくる。
何度も頷きながら微笑み返すと、桜ちゃんは一度だけ頷いた後、パイプ椅子に座っていた。
すると、またしても奏介からラインで【第2試合行ってくる! これに勝ったら準決勝!!】とのメッセージが。
『いちいち送ってこなくていいのに…』
そう思いながらも、〈ファイト〉のスタンプを押していた。
目の前では、実技テストである2ラウンドのスパーリングが行われたんだけど、観客や付き添いの人たちは声を発することを禁止されているため、聞こえるのはシューズのこすれる音と、グローブがぶつかる音だけ。
時々、試験官の「〇番! もっと手を出して!」とか「ワンツーして!!」という声が聞こえるだけで、それ以外の声は聞こえない。
黙ったまま静かに見ていると、スマホが震え、奏介から【勝った!! 準決勝!! 相手がやばい強そう】というメッセージ。
〈気持ちで負けるな!! 全力でいけば絶対勝てる!!〉
【好きのスタンプ送ってくんね? そうすれば勝てる気がする】
『何言ってんだか… 自分から頼んで送ってもらって、価値あるのかな?』
そう思いながら『好き』のスタンプを探したんだけど、すぐに見つけることができず、よくわからないスタンプを送る。
すると奏介から【なんだこれ?w】と、メッセージが送り返された。
〈試合に集中しろ!!〉
とメッセージを送ると、奏介の既読は付くんだけど、返事がない。
しばらくすると、桜ちゃんがリングに上がると同時に、部長からのラインを受信し【決勝、奏介と亮だよ。 今、リングに上がった】とのメッセージが。
『がんばれ…』
祈るようにスマホを握りしめ、リングの上を見つめていた。
桜ちゃんの実技テストが始まったんだけど、桜ちゃんは手数が多く、特に注意されることもないまま、テストを終えていた。
それと同時に、プロテスト終了のアナウンスが放送され、会場を後に。
スマホを見ながらロビーで待っていたんだけど、奏介からの反応がない。
『どっちが勝ったんだろ…』
そう思いながら奏介に〈どうだった?〉とメッセージを送ったんだけど、既読が付くだけで返事がない。
『負けた?』
不安に思いながら部長にラインすると、【後でジムいくから、その時に話す】とだけ。
迎えに来た父さんにそのことを告げると、父さんは「そうか…」とだけ言い、駐車場のほうへ向かっていた。
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