第50話 デート

ショップに入った後、自然と手を離し、二人でシューズを見ていた。


ショートタイプとロングタイプのどちらがいいかで軽く言い合いになっていると、店員さんがキョトーンとしながら見てくる。


そんなことを気にせず、奏介は「英雄さん、いつもロングだったろ?」と切り出してきた。


「試合の時だけだって。 父さん、本当はショートの方が好きなんだよ? 当時の流行がロングだったから、それに合わせてただけ。 今は常にショートじゃん」


「そっかぁ… どうすっかなぁ…」


奏介は散々悩んだ挙句、黒と赤のショートシューズに決めたんだけど、その後も店内を話ながらウロウロしていた。


グローブコーナーに移動し、話しながら奏介のグローブを選んでいると、奏介が突然「やべ! 映画!!」と声を上げ、慌てて会計を済ませた後、映画館に行ったんだけど、上映時間が過ぎてしまい、次の上映が昼過ぎの状態に。


「次のにする?」と聞くと、奏介は「そうだな。 そうすっか」と笑いかけ、歩き始めいた。


スポーツ用品店をはしごし、自分のアンクルサポーターと奏介のグローブを買い、ファーストフード店で少し早いお昼を食べた後、映画を見たんだけど、映画の内容がいまいち。


試合のシーンはすごく良かったと思うんだけど、それ以外の部分がいまいちよく理解できなかった。


特に、いきなり出てきた女性が、予言のようなことを言った後、謎の死を遂げるところは、まったくと言っていいほど理解できず。


映画を終えた後、理解できなかった部分を奏介に聞くと、奏介は「わかんねぇ… つーか、なんであの女の人出てきたの?」と、まったく同じことを思っていた。



電車の中でも、ずっと映画の話をし、そのままジムにむかう。


ジムの前で奏介と別れ、着替えて荷物を持った後、ジムの中に駆け込むと、奏介は新しいシューズを履き「やべぇ! マジかっこよくね!?」と、満足げな表情をしていた。


ヨシ兄の「奏介、スパーしようぜ」との提案で、バンテージを巻いた後、さっき買った黒いグローブを嵌めてあげると、奏介は気合十分という感じでシャドウボクシングを始める始末。


周囲からヤジが飛ぶ中、楽しそうにスパーリングをしている二人を見ていると、父さんの携帯が鳴り響き、父さんは「ちー、カズが大至急店に来いって」と切り出してきた。


『えー… これから動こうと思ったのに…』


少し不貞腐れ、ジャージのまま店に走り出していた。



店に入ると、どこもかしこもカップルばかり。


沙織さんはテイクアウトの対応で手一杯の状態で、ホールでは見慣れないバイトの女の子がオーダーを取り、俊君がドリンクを作りながら提供までしていた。


裏に回ると、カズ兄が「ダッシュ」とだけ言い、オーナーと二人でケーキ作りに没頭し始める。


『デートカオス…』


そう思いながら急いで着替え、急遽ヘルプでバイトに入ったんだけど、皿洗いから抜け出すことができず。


『クリスマスって怖い…』


そう思いながらも、慌ただしく動き回り続けていた。


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