第48話 謝罪
奏介とジムまで走り、ジムの前に到着したんだけど、ジムの中からは煌々と光が放たれている。
普段、試合後は誰もおらず、電気が消えていることが多いのに、電気がついているし、物音が一切しないことを不思議に思っていた。
「先行ってて」と一言つげ、自宅に駆け込んだ後、シューズを持ってジムに行ったんだけど、奏介はドアの前で立ちすくんでいる。
「どうしたの?」と言いながら中を覗くと、そこには試合に出ていなかった広瀬のメンバーが地べたに正座をしていて、高山さんが父さんに平謝りをしていた。
不思議に思いながら中に入ると、父さんは私と奏介に気が付き、手招きをしてくる。
奏介と顔を見合わせた後、父さんのもとに行くと、高山さんが「大変申し訳ありませんでした!」と、深々とお辞儀をしながら謝罪をしてきた。
慌てて高山さんの肩を上げながら「ちょ! やめてくださいよ!!」と言うと、高山さんが眉間にしわを寄せながら切り出してきた。
そもそも、この試合は高山さんが切り出して行われた試合だったんだけど、理不尽な判定ばかりで納得がいかず。
試合後、高山さんは練習生の前で抗議をしたんだけど、レフェリーをしていたトレーナーや、他のトレーナーも「これが広瀬流」と言い切り、聞く耳を持たず。
口論の末、広瀬のトレーナーを辞めることを告げると、同じことを思った練習生たちもすぐに親に電話をし、『退会申請』をした後、全員で謝罪をするためにうちのジムに来たとのこと。
『謝罪って、高山さんたちは抗議してくれたんでしょ? 関係ないじゃん』と思っていたんだけど、高山さんは責任を感じているようで、何度も謝罪するばかり。
父さんは腕を組みながら何かを考えた後「行く当てはあるのか?」と切り出した。
「いえ… 何も…」
「そうか… いきなり無職は大変だろ? うちに来るか? そこの練習生たちも。 試合に出てないにもかかわらず、謝罪に来るってことは、それだけ誠意とやる気があるってことだろ。 これだけの人数を俺一人じゃ見れないし、高山、どうだ? 給料は減るけどな」
高山さんは最初、かなり遠慮していたんだけど、練習生たちに背中を押され、最後には父さんと握手をしていた。
ただ、練習生たちは親の同意が必要だから、その場で即決というわけにはいかず、後日、保護者と来るように言っていた。
話し合いを終えた後、父さんに「リング、使っていい?」と聞くと、父さんは快く了承し、元広瀬の面々が見守る中、奏介のミット打ちをしていたんだけど…
リングサイドで見ていた父さんに火がついてしまい、父さんと交代すると、奏介はどこか楽しそうで、嬉しそうにミット打ちをはじめ、父さんからミットで殴られまくっていた。
リングサイドで奏介の事を見ていると、高山さんが「キックの大会出ないの?」と切り出してくる。
「出ないですよ。 あくまで趣味」
「あんなに強いのに? 広瀬の田中をKOしたんだし、絶対ベルト取れると思うよ?」
「ヨシ兄の実物見て『いいなぁ』とは思うけど、本気でほしいか?って聞かれたら、そうでもないような気がするんですよねぇ…」
「本気でほしいものって何? お詫びにプレゼントするよ」
高山さんの質問を聞き、頭の中に『菊沢奏介』の文字が浮かんだんだけど、すぐに振り払い「わかんないです。 物欲がないんですよ」と、苦笑いを浮かべながら言うに留めていた。
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