第24話 つまんない
制服を身にまとい、おじいちゃんの家を出て歩いていると、隣にピッタリとくっつくように歩く誰かに気が付き、ふと顔を上げると、菊沢が並んで歩いていた。
思わず足を止め「げ」っと言葉を漏らすと、菊沢は足を止め「げって言うな」と、吐き捨てるように言ってきた。
歩きながら「昨日、春香って子が門の前にいたよ? 連絡くれって言ってた」と言うと、菊沢は正面をみたまま「で?」とだけ。
「伝えてくれって言われただけ」
そう言った後に歩くスピードを上げると、菊沢もスピードを上げていた。
黙ったまま歩き続けていると、菊沢が言いにくそうに切り出してきた。
「…他になんか言われた?」
「千尋ってどの子だって聞かれた」
「なんて答えた?」
「早苗が『そんな子いない』って言ってた」
「…あっそ」
菊沢は無関心と言わんばかりの態度で吐き捨てるように言い、黙ったまま歩き続けていた。
黙ったまま学校につき、放課後には陸上部の練習に参加。
部活を終え、学校を出ようとすると、校門の前に春香が立っている。
黙ったまま目の前を通り過ぎようとすると、校門の前に立つ春香が声をかけてきた。
「あの、菊沢君って…」
「見てないし、伝言も伝えた」
それだけ言い、すぐに歩き始めたんだけど、しばらく歩いていると、背後から駆け寄る足音が聞こえ、振り返ると菊沢が駆け寄ってきた。
小さくため息をつきながら踵を返し、歩き始めると、菊沢は黙ったまま歩き始め、切り出してきた。
「…なんか悪いな」
「ちょっとくらい話してあげれば?」
「嫌だ。 何があっても、あいつだけは絶対に許さない」
「そのせいで被害を受けるのはこっちなんだけど」
はっきりとそう言い切ると、菊沢は大きくため息をつき、切り出し始めた。
「迷惑かけてるのはごめん。 謝る。 けど、どんなにしつこくされてもやり直すのは無理」
「なんで?」
「『減量中だ』って言ってるのに、『雑誌に載ってたケーキ食いに行こう』とか、見たくもない恋愛映画に付き合わされたり、やりたいことは一つもできないし、振り回されるばっかりでつまんないんだよ」
「それでも好きで付き合ってたんでしょ?」
「『中田英雄の娘だ』って言われてたからな」
突然出てきた父さんの名前に、思わず足を止めてしまった。
「…中田英雄?」
「そ。 俺、あの人に憧れてボクシング始めたんだよ。 ジムの奴にあいつを紹介されたんだけど、その時に『中田の娘だ』って言われてたんだ。 『両親が離婚して苗字が変わった』って言ってたけど、全部嘘だった」
「…その中田って、合宿に特別コーチとして来た人?」
「そそ。 合宿中、マジで興奮したし、超スパルタでめっちゃ楽しかったんだけど、あいつが毎晩泣きながら電話してきてマジ萎えた。 おかげで毎晩寝不足で、ボコボコにされてたんだ。 中田さんの娘、大人相手でも怯まないし、めちゃめちゃかっこいいんだぜ?」
「…会ったことあんの?」
「あるよ。 小学校の時、3か月くらいだけど、同じ学校に通ってたし、毎日のように英雄さんの通うジムを覗きに行ってたからさ。 話しかけてもシカトされたし、すぐに転校したから卒アルにも載ってないし、手がかりが元世界チャンプの娘で、キックボクサーで『ちー』って呼ばれてた。 ちなみに、名前は『中田千尋』。 すげー会いたいんだけど、親戚にいない?」
なんとも言えない感情を抱き、「いない。 つーか、あんたのつまんない話聞いてたら、トレーニングの時間なくなる」と言い切った後に駆け出し、おじいちゃんの家に急いでいた。
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