第17話 筋トレ

誤って部長をダウンさせてしまい、逃げるように学校を後にしたその日の夜。


夕食時に父さんが「今度の土曜、ジムに来るか?」と切り出してきた。


スケジュールを思い出してみると、試験1週間前だから、土曜は陸上もボクシングも練習はない。


「なんかあるの?」


「交流戦やろうって話になってな。 広瀬と」


「…広瀬って、隣町の広瀬ジム?」


「そそ。 広瀬の新コーチに、昔の後輩が来たんだよ。 高山って会ったことないか?」


「無いけど… 邪魔になるから行かない」


「そうか。 わかった」


父さんはそう言った後、ヨシ兄と話し始めていた。


『広瀬ジムって菊沢がいるところだよね? またアイツ… なんかの呪いか?』


頭に過った『菊沢』の名前に、少し苛立ちながら食事を取り続けていた。



翌日から週末まで、陸上部の練習に参加していたから、菊沢に会うのは朝の登校時だけ。


なぜか二人並んで登校してるんだけど、お互い話しかけることも、何かを切り出すこともなく、黙ったまま登校してるだけだった。



そして週末の土曜。


自分の部屋でストレッチをしていると、外から大勢の話し声が聞こえ、カーテンの隙間からジムの方を見る。


『あれが広瀬ジム…』


10人ほどの人だかり中に、菊沢の姿を見つけ、大きくため息をついていた。


『やっぱりいる… お祓い行ってこようかな…』


そんな風に思いながら、筋トレばかりを繰り返していた。



少し早い時間にシャワーを浴びた後、夕方になると、大勢の話し声は家の中に移動し、部屋から出れないでいた。


『どうしよ… おじいちゃんの家に逃げる? 父さんに言ってからじゃないと怒られるし、どうしたらいいんだろ…』


トイレは2階にもあるからいいんだけど、問題は食事。


特に、朝のロードワーク前後にスポーツドリンクを飲まないと、脱水症状が起きてしまい、最悪、倒れてしまうことだって考えられる。


しばらく考えていると、母さんが部屋に入り「父さんが広瀬の人たちを連れてきちゃったんだけど、ごはんどうする? 人がいっぱいで、下で食べられないのよね」と切り出してきた。


「持ってきてくれる? スポドリも」


母さんは「わかった」と言った後に部屋を後にし、食事を持ってきてくれた。



一晩中、騒がしい夜を過ごし、早朝に目が覚める。


いつものようにカーテンを開けると、外には雨が降っていた。


トレーニング用のジャージに着替えた後、スポーツドリンクとタオルを抱え、足音を立てないように1階に行き、ジムの鍵をもって外に飛び出す。


ジムに逃げ込んだ後、スポーツドリンクとタオルをベンチに置き、ストレッチを開始。


タイマーをスポーツドリンクの横に置いた後、縄跳びを使ってトレーニングを始めていた。



15分後。


タイマーの音が鳴り響き、手と足を止め、しゃがみ込んで呼吸を整える。


大きく深呼吸をした後、タイマーを止め、水分補給をしながら時計を見ていた。


『1分経った』


そう思いながら再度タイマーをセットし、縄跳びを始める。


腿の高さを気にしながら縄跳びを続けていると、再度タイマーの音が鳴り響いた。


それを合図にしゃがみ込み、呼吸を整えていると、タイマーの音が急に止まり、振り返ると、タイマーを手にした菊沢が足を組み、ベンチに座っていた。

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