第16話 ごまかし
『陸上部に参加する』と言った翌週から、陸上部の練習に参加することに。
大会の近い陸上部の練習を優先させ、ボクシング部は陸上部の練習がない日だけ。
そのせいで、ジムに行く日が日曜だけになってしまったんだけど、平日は普段以上に体を動かしているし、特に気にすることもなかった。
陸上部の練習に参加すると同時に、クラスに話す人間が増え、ラインのフレンド数も増加。
けど、自ら発言することもなく、連絡事項について返事をする程度だった。
そんなある日のこと。
陸上部の練習が休みだったんだけど、ミーティングがあり、かなり遅い時間にボクシング場へ。
ボクシング部に顔を出したんだけど、部長である『畠山省吾』以外はダウンし、部長は「早く立てよ!」と、ダウンしている人に怒鳴りつけていた。
薫君に近づき「これ、どうしたの?」と聞くと、「ミット打ちだよ。 全員ダウンするまでやられちゃった。 奏介君がロードワークから帰ってこないからさ」と苦笑いを浮かべるだけ。
「ふーん」とみんなを眺めながら言うと、部長は「薫! ミット受けてくれ!!」と怒鳴るように言い、薫君は顔を青くしていた。
薫君が体を小刻みに震わせていると、信也君が「薫より中田の方がいいんじゃね? 陸上部で鍛えてるし、どう考えても薫より体格いいじゃん」と切り出してくる。
「中田! ミット受けろ!!」
「え? マジで?」
「早くしろ!!」
声をかき消すように勢いよく怒鳴られ、ミットを手にはめたんだけど、異臭がすごいのなんの…
『使い終わったら手入れしろっつーの』
そう思いながらリングに上がり、部長のパンチを受けるだけ。
しばらく受けていると、部長が手を止め「中田も打ってこないとダメじゃん。 躱す練習になんないだろ?」と…
『そこまでのレベルに達してない』
何てことは言えず、パンチを受けつつも力なく反撃し、躱す練習に付き合っていた。
しばらくパンチを受けていると、1発だけ力のこもった良いパンチがミットに収まり『パーン』という高い音を響かせる。
その瞬間、スイッチが入ってしまい、すかさずミットが部長の左頬を弾いた。
『やべ!!』と思ってももう遅い。
『パーン』と言う高音が響いた後、ボクシング場はシーンと静まり返り、部長は力なく倒れこんでいる。
その少し後に、ドアのほうから菊沢の大きな笑い声がボクシング場に響き渡り、慌てて部長に駆け寄った。
「い、いきなり転ぶからびっくりしましたよ!! 大丈夫ですか!?」
私の声に反応するように、周囲から「転んだ? え? 滑った?」という声が聞こえ始める。
部長はゆっくりと立ち上がり「す、滑っちった…のか?」と、不思議そうな表情を浮かべていた。
『うまく誤魔化せた…』
少しだけホッとしていると、グローブをはめた菊沢がリングに上がり「次、俺だろ?」と、嬉しそうな表情をしながら切り出してきた。
『か… 帰りたい…』
私の気持ちとは反対に、菊沢はグローブを合わせ、『バシバシ』と音を立て、「早く構えろよ」と切り出してくる。
それと同時に、谷垣さんの「時間だ~! 終われ~」と言う声が聞こえ、急いでリングを降り、後片付けを始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます