第15話 転倒
部活を終え、自宅に戻る前にジムに行き、合宿中の『特別コーチ』について、父さんに文句を言っていた。
「また騒ぎになったらどうすんのよ!」
「お前は気にしなくていいだろうが!!」
「そういう問題じゃないっつーの!! 一言くらい相談しろっつってんの!!」
「即決で決めたんだから相談する暇すらねぇだろう!?」
「このクソジジィ…」
「なんだと? 父さんに向かって… リング上がれやぁ!!」
「上等だコラ!!」
結局、怒鳴り合いの喧嘩は、当然のように殴り合いに変わる。
ジム会員の桜ちゃんの合図の後、しばらく様子を見ながらステップを踏み、ジャブを打ち合っていた。
一瞬の隙が見えた瞬間、私の右ボディと同時に、父さんの右ストレートが左こめかみに刺さった途端、上下左右がぐるぐる回り、リングに倒れこんでいた。
「ちー! 大丈夫か!?」
遠くから会員たちが呼ぶ声が聞こえ、気が付くと智也君の心配そうな表情が視界に飛び込んだ。
ゆっくりと視線だけを移動させると、脇腹を抱え、うずくまっている父さんの姿。
『入った…』
そう思いながらゆっくりと起き上がり、大きくため息をついていた。
翌朝、顔の痛みで眠ることができず、ずっと座って冷やしていたせいか、かなり眠い。
洗面所に行き、鏡を見てみると、左こめかみは腫れ、瞼まで膨れ上がっている。
『やらかした…』
ロードワークには出ずにキッチンへ行き、腫れた部分を冷やし続けていた。
時間になると同時に、父さんが切り出し、車でおじいちゃんの家まで送ってくれたんだけど、車の中はかなり険悪な空気。
黙ったまま車を降り、おじいちゃんの家に入ると、おじいちゃんは私の顔を見るなり「また派手に…」と呆れたように呟き、おばあちゃんが眼帯を手渡してきた。
眼帯をつけ、普段より早い時間におじいちゃんの家を出たんだけど、ロードワークに出ていないせいか、かなりイライラしていた。
すると、背後から急ぎ足で近づいてくる足音に気が付き、自然と歩くスピードを速める。
背後から近づく足音は、離れることなくどんどん近づき、横から「それどうした?」という菊沢の声が聞こえてくる。
『またお前かよ…』
うんざりしながら「こけた」とだけ。
「お前が? あんなに体幹いいのに?」
「誰でもこける」
そう言いながら歩くスピードを速めたんだけど、菊沢は隣を歩くばかり。
「ついてくんな!」
「同じ学校に行くだけだろ? それ、誰に殴られた?」
「こけてぶつけた」
その後も菊沢は、「殴られた?」とか「誰にやられた?」とか、しつこすぎるくらいに聞いてくる。
『マジうざい』
そう思いながら学校につくと、今度は早苗が駆け寄り「どうしたの?」と聞いてくる始末。
「こけた」とだけ言うと、早苗は少し考えた後、「陸上部、秋季大会まで参加してもらえないかな?」と切り出してきた。
すると、すぐ隣にいた菊沢が、苛立った様子で早苗の言葉を止める。
「ちょっと待て。 こいつはボクシング部のマネージャーだぞ?」
「先生の許可は取ってあるよ。 後で坂本先生から言われるはず」
「ふざけんな。 掛け持ちなんかさせるわけねぇだろ?」
口論となりつつある二人に… というか、菊沢に苛立ち「いいよ。 陸上行く」とだけ。
「はぁ!? マネージャーどうすんだよ?」
「薫くんがいるじゃん。 怪我治ったら、陸上部、参加するわ」
はっきりとそう言いきると、早苗は歓喜の声を上げ、菊沢は「ふざけんな!」と怒鳴りつけてくる。
完全に聞こえないふりをし、黙ったまま教室に向かい、朝からかなり苛立っていた。
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