第14話 ムカつく

菊沢に後を追われた週明け。


ロードワーク後におじいちゃんの家に行き、制服に着替えた後、学校に向かって歩いていた。


少し歩いていると、隣に誰かがぴったりとくっつくように歩いていることに気が付く。


『まさか…』と思いながら顔を見ると、菊沢が前を向いて歩いていた。


「げ… この前から何なの?」


「通学中」


「あっそ」


黙ったまま学校に向かって歩いていると、突然「どこ行くんだよ?」と、菊沢に声を掛けられた。


「通学」


「バス停こっちだろ?」


「徒歩通学」


それだけ言った後、急ぎ足で歩き始めたんだけど、菊沢が隣を歩き始めた。


「バス停過ぎたよ?」


「今日は徒歩通学」


「あっそ」


歩く速度を緩めず、黙って歩き続けていた。



黙ったまま学校につくと、玄関で別々になったんだけど、なんでいきなり付きまとうような行動をしてきたのかがわからない。


『ムカつくやつだなぁ…』


そう思いながら自分の机に座り、ぼーっと外を眺めていた。



放課後、ボクシング場に行くと、薫君がバンテージを巻きなおしているだけで、他には誰もいなかった。


黙ったまま薫君の隣に座り、バンテージを巻きなおそうとすると、薫君が嬉しそうな表情をして切り出してきた。


「奏介君が全員連れてロードワーク行ったよ」


「全員? マジで?」


「うん。 谷垣先生が『全員連れて行け』って命令してた。 この前の練習試合、酷かったもんね」


「ふーん」


それ以上の会話はせず、黙ったままバンテージを巻きなおし、ボクシング場の掃除をしていると、部員たちがボクシング場に戻り、バタバタと倒れこむ。


『スタミナ切れ。 どんだけ走ったんだろ? 時間的に5キロくらいかな?』


そう思いながら掃除を続けていると、菊沢が目の前に立ち、バンテージを差し出してきた。


「巻け」


「は? 自分でやれば?」


「自分じゃできねーだろ?」


「ふーん。 広瀬ジムってバンテージの巻き方も教えないんだ」


はっきりとそう言い切ると、菊沢は黙ったまま拳を握り締めていた。


『張り合いのないやつ』


そう思いながら掃除をしていると、菊沢が小声で「ムカつく…」と呟くように言ってきた。


完全に聞こえない振りをし続けていると、菊沢は突然私の胸ぐらをつかみ「ムカつくんだよ」と、嫌悪感むき出しの目で見ながら言ってくる。


谷垣さんが慌てて止めに入ったんだけど、菊沢はベンチを蹴り飛ばし、ボクシング場の外へ。


『なんじゃありゃ? 反抗期? あ、もしかして、彼女と喧嘩? 無関係の奴に喧嘩売るとか嫌だねぇ』


そう思いながらベンチを直し、掃除を続けていた。



部活を終え、簡単なミーティングをしていたんだけど、その時に谷垣さんが「夏休み中、合宿するぞ」と言いながら手紙を渡してくる。


『合宿? そんなんあるの?』


そう思いながら手紙を見ていると、【特別コーチ:中田英雄(中田ジム)】と書いてあった。


『あのクソ親父… 何勝手に決めてんだよ… マジムカつく… つーか、これってマジでやばくね?』


「特別コーチの中田英雄さんは、元世界チャンピオンで、そこに賞状のある中田義人のお父さんだ。 英雄さんに相談したら、引き受けてくれることになった! みんな、気合い入れて練習するぞ!!」


周囲が興奮した様子で騒いでいる中、どんどん血の気が引き、何とかして断れないかと考えていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る