第12話 八つ当たり

試合が終わり、他校の生徒たちが帰った後、誰もが黙り込み、動こうとはしなかった。


谷垣さんが「相手は格上なんだし、仕方ないだろ」と、みんなを慰めることを言い始め、薫君は「次は頑張ろう!」と励ましていた。



『無駄なことを… あ、思ったよりも早く終わったし、急げば光君がいるかも?』


そう思いつき、沈み切った空気の中、一人いそいそと後片付けをしていた。


並べたパイプ椅子を片付けていると、菊沢が立ち上がり、私に向かって「ムカつくんだよ」と言い放ってくる。


「は? 八つ当たり? ダッサ」


「マネージャーだろ!? 励ましの言葉くらいかけらんねぇのかよ!!」


「必要ないっしょ。 普段ダラダラしてるんだし、その結果が出ただけ」


「みんなちゃんと練習してんだろ!?」


「どこが? リングの上で寝転がるとかありえないっしょ? 普段リングでゴロゴロしてるから、すぐにダウンしたんじゃないの? 大体、ロードワーク行くなら全員連れてけっつーの」


呆れながら言い放つと、菊沢は少しの沈黙の後「…お前、やっぱり経験者か?」と、呟くように言い始めた。


「は? 何言ってんの?」


「普通は『ランニング』って言うだろ? 『ロードワーク』なんて言わねぇよな? バンテージの洗い方も薫に教えてたし、経験者なんだろ?」


「……」


必死に言い訳の言葉を探したけど、うまい言い訳の言葉が思い浮かばず…


「経験者なんだろ?」と詰め寄ってくる菊沢に、「違う」と言うのが精いっぱいだった。


『どうしよ… これは… マジでやばいっしょ!! また引っ越すの? 嫌すぎる…』


嫌な汗をかくと同時に、ふと凌君の顔が頭に浮かんだ。


「り、凌君! 凌君と古い友だちで… 凌君が『ロードワーク』って言うから移った!」


「は? お前舐めてんの?」


「菊沢! いい加減にしろ!!」


谷垣さんの怒鳴り声が響くと同時に、ホッと胸を撫で下ろした。



「中田の言う通り、リングで寝転がるのは言語道断だ。 ロードワークに一人で行くのもおかしい。 今まで黙って見てたけど、これからはビシビシ行くからな! 次は絶対に勝つぞ!!」


一人熱くなる谷垣さんを余所に、いそいそと後片付けを始める。


谷垣さんが説教をする中、パイプ椅子を片付け終え、こっそり帰ろうとすると、谷垣さんが「中田! 午後、練習するぞ!!」と、一人燃え始めていた。


「先生! 試合後だし、オーバーワークは怪我の原因になります!! なのでお先に失礼します!!」


はっきりとそう言い切った後、直角にお辞儀をし、急いで更衣室に向かう。



急いで着替えた後、更衣室を飛び出すと、菊沢が私の前に立ちふさがった。


「待てよ」


そう言いながら腕をつかまれたけど、すぐに振り払い「誰が待つかバーカ」と言いながら走り去る。



『まだいる!! 絶対いる!!』



おじいちゃんの家にも寄らず、ローファーのまま、まっすぐにジムへ向かって走り続けていた。



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