第10話 予定
父さんから『光君が来る』と聞いた翌日。
部活に行き、薫君と二人でバンテージを巻き直してると、菊沢がロードワークから戻ってきた。
菊沢が部員たち相手のミット打ちを受けていると、顧問の谷垣さんが珍しくボクシング場に現れ、全員を一か所に集めた。
「5月8日に練習試合するから覚えておけ~」
思わず「え?」と声を上げると、谷垣さんが聞いてきた。
「なんだ? 都合悪いか?」
「はぁ…」
谷垣さんは「ん~」とうなり声をあげた後「どうしてもだめか?」と聞いてきた。
「その日はちょっと…」
「会場準備があるし、薫一人じゃ大変なんだよなぁ… 何とか都合付けられないか?」
「どうしてもその日はちょっと…」
言葉を濁しながら話していると、菊沢が「いいんじゃない? いなくても」と声を上げた。
「無理に予定を開けたって邪魔っしょ。 今だって居ても居なくても変わんねぇんだし。 だったら、居ないほうが良いんじゃね?」
「は?」
「居てもボーっとバンテージ巻き直してるだけだろ? だったら居ないほうがマシ」
この言葉にブチっと来てしまったんだけど、谷垣さんが「まぁまぁ」と声を上げ、菊沢を宥めていた。
「…谷垣さんいいよ。 予定空ける」
そう言った後、苛立ったまま使用済みのバンテージを持ち、洗濯機の置いてある外に出た。
『なんなのアイツ。 すげーむかつく。 大体、ロードワーク行くなら全員連れて行けよな!』
そう思いながら使用済みのバンテージを緩く巻き、ネットに放り込んでいると、薫君が駆け寄ってきた。
「え? バンテージってそうやって洗うの?」
「そ。 巻いてからネットに入れて洗う。 で、このまま干す。 そうしないと絡まってイラつくし、無駄に時間がかかる」
「へぇ~! 知らなかった!! よく知ってるね!!」
『やべ!! やらかした!!』
慌てて「す、スマホで調べたんだ」と言うと、薫君は「そうなんだ。 僕、スマホないから、本でしか調べられないんだよね」と、苦笑いを浮かべていた。
少し早い時間に部活を終え、着替えた後に玄関に向かうと、他校の制服を着た女の子が門の前に立っていた。
何も気にせず、その子の前を素通りしようとすると、背後から「悪い! 遅くなった!」という声が聞こえるとともに、後ろから菊沢がぶつかり、謝罪もなしに女の子の元へ駆け出す。
菊沢は私を見ることもなく、当たり前のように女の子の隣に並び、歩き始めていた。
『ぶつかっといて謝罪もなしかよ… これだからブルジョアは嫌なんだよなぁ…』
イライラしたままおじいちゃんの家に向かい、着替えた後、苛立ちをぶつけるように走り始めた。
ジムについた後、息を切らせながら時計を見ると、19分しか経っていない。
『おお! 20分切れた!!』
浮足立ったままバンテージを手に巻いた後、グローブをはめてサンドバックを殴っていると、凌君が話しかけてきた。
「今度、練習試合あるだろ? 俺、行くからよろしく」
「は? その日って、光君来るんじゃないの?」
「そうなんだけど、菊沢の相手に選ばれたからさ。 千歳の事は話さないから安心しろ。 また騒ぎになって引っ越されたら困るし」
「そうしてくれるとありがたい」
そう言いながらサンドバックを殴り続けていた。
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