第8話 部活
部活を終え、おじいちゃんの家に帰宅したんだけど、時計を見ると19時少し前。
『こりゃダッシュで帰らないとまずいな…』
そう思いながら急いで着替え、おじいちゃんの家を飛び出した。
急いで帰宅した後、玄関で靴を脱いでいると、父さんが背後から「遅かったな」と切り出してくる。
「部活」とだけ言うと、父さんは部活の話を詳しく聞き出そうとした。
陸上部での出来事を話すと、父さんは眉間にしわを寄せ、少しだけ顔を赤くした後、「次どうするんだよ?」と切り出す。
「マネージャーになった。 ボクシング部の…」
その言葉を聞いた途端、父さんの表情はパァと明るくなり「そうか! とうとうベルト目指す気になったか!」と、喜びの声を上げた。
「マネージャーだっつってんの!」
そう言った後、喧嘩を避けるように階段を駆け上った。
『そういや、広瀬ジムの菊沢奏介の事、父さんに聞いたらわかるかな?』とも思ったけど、余計なことを聞いて周囲に漏れるのが嫌で、何も言わないままでいた。
翌日、学校に行き、教室に入るなり、早苗が挨拶をしてきた。
初めて同級生から挨拶をされたことに、かなり驚いていたんだけど、早苗は小声で「元部長、顧問の坂本先生にかなり怒られてたよ」と耳打ちしてくる。
「ああ… 完全な新人いじめだもんね」
「『もう二度と来させないし、部活は立ち入り禁止にした』って、坂本先生が断言してたんだけど、もし良かったら、戻ってこない?」
「え? 戻る?」
「うん! だって、グランド60週も難なく完走して、かなり早かったし、絶対に良い選手になると思うんだよね!」
早苗の言葉を聞くと同時に、父さんの嬉しそうな表情が頭をよぎる。
『もし、陸上部に戻ったら、殴り合いだけじゃ済まないだろうな…』
そう思うと、わき腹に食らった痛みまでもが蘇ってくる。
「辞めておくわ。 あんまりコロコロ変えるのも良くないしさ」
苦し紛れの言い訳をすると、チャイムが鳴り、早苗は自分の教室に戻っていった。
放課後、更衣室に行こうとすると、早苗が大きな段ボールを二つ重ね、押しながら歩いている姿が視界に飛び込む。
早苗に近づき「…何してんの?」と聞くと、「あ、千歳ちゃん、部室まで持って行かないといけないんだ。 往復するの面倒だから、一気に持っていきたいんだけど、重くて持ちあげられなくて…」と困った表情をしていた。
黙ったまま2つの段ボールを持ち上げたんだけど、毎日筋トレしているせいか、そこまで重くない。
早苗は驚いた声を上げていたんだけど、何も気にすることもなく、黙ったまま陸上部の部室まで、荷物を運んでいた。
部室に荷物を置くと、早苗は「すごい! 力持ちなんだね!!」と、感激の声を上げ、感触を確かめるように、私の腕を握ってくる。
「わ! すごい筋肉! なんか運動してるの?」
「だ、ダイエットでさ、ランニングしてみたりして? つーか部活あるから!」
早苗の手を振り払い、逃げるように急いで更衣室に駆け出した。
ジャージに着替えた後、ボクシング場に行くと、相変わらずダラダラしている。
『やっぱ陸上部戻ろっかな…』
そう思いながらも、洗濯後のだらしなく伸び、絡まり合っているバンテージを、イライラしながら薫君と二人で解いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます