第7話 入部

翌日から、ボクシング部のマネージャーになったんだけど、放課後、制服のまま体育棟3階にあるボクシング場に入った途端、言葉を失っていた。


リングの上で寝転がっている男子生徒や、サンドバックで遊んでいる生徒、中には、ベンチに寝転んでスマホを弄っている生徒等…


10人もいるのに、誰一人として真面目に練習してるやつはいない。


全員が全員、見るからに『ヤンキーかぶれです!!』と言わんばかりの奴らが、揃いも揃ってダラダラしている。



普段見ている、父さんのジムとは正反対に、ひたすらだらだらとしているだけ。


『父さんが見たら怒鳴り散らして、10分後には誰もいなくなるだろうなぁ…』


そう思いながらボクシング場に足を踏み入れると、卓球部で一緒だった薫君が話しかけてきた。


「中田さん! 谷垣先生から聞いたよ! またよろしくね!」


「はぁ…」とだけ返事をした後、薫君から説明を受けていたんだけど、周囲は遠くから「女マネージャーだ…」と小声で話しながらジロジロ見てくる。


『うざい…』


そう思いながら一通りの説明を受けた後、ベンチに座ってルールを聞いていると、一人の男子生徒が話しかけてきた。


「これ持ってみ」


そう言いながら縄跳びを手渡されたんだけど、普段使っている縄跳びと何ら変わりはない。


「重いでしょ? いつもこれ使って飛んでるんだよ。 すごくね?」


『なにがどうすごいの?』と言いたいのをグッとこらえ「はぁ…」とだけ。


すると薫君が「信也君、今説明してるから後にして!」と話を中断させていたんだけど、信也君は「まぁいいじゃん。 ちょっとだけ飛んでみ? すげぇむずいから」といい、縄跳びを使うよう促してくる。


「いや、いいよ」


「いいからいいから! マジむずいからさ! 1回だけ!」


『これ、飛ばないと終わんない系?』と思いつつも「制服だから」と言い切り断ると、信也君は「つまんねー」と言い、少し離れた場所で縄跳びを始める。


が、1分もしないうちに「疲れた~」と言い座り込んでいた。



『はぁ!? 疲れてからが勝負だろ? なに座ってんの? 15分3セットが基本だろ?』


ただただ見ているだけなんだけど、あまりにもダラダラしている姿にだんだんイライラしてくる…



「いつもこんななの?」


薫君にそう切り出すと、薫君が何かを言おうとした瞬間、ボクシング場のドアが開き、息を切らせた男の子が中に入ってきた。


『あ、昨日の…』


そう思っていると、その子はボトルに入った飲み物を飲み、タオルで顔を拭いた後、薫君に「マネージャー?」と切り出す。


「そそ。 1-Bの中田千歳さん」


「中田? …中田って、んな訳ないか」


男の子はそう言った後、タオルを放り投げたと思ったら、手を叩きながら「始めるぞ~」と声をかけた。


すると薫君が小声で「1-Dの菊沢奏介くんだよ。 隣町の広瀬ジムに通ってるんだ。 先週あった新人戦で優勝したんだよ」と言い、壁に掛けられた賞状を指さし、「へぇ~」と言いながら賞状を眺めていた。


『広瀬ジムねぇ… カズ兄が言ってた、金持ちのブルジョアジムじゃん。 新人戦、凌くんが出たって言ってたな。 2回戦敗退だったけど… あ、ヨシ兄の賞状だ』


そう思いながら周囲を見ると、さっきよりもだいぶましな状態に。


動きはダラダラはしているんだけど、横になっている生徒が誰もいないことに、ほんの少しだけ苛立ちを忘れていた。

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