第5話 水たまり

翌朝、アラームの音で目が覚め、外を見ると雨が降っていた。


『ロードワークは無しか… 梅雨時はこれがあるから嫌だねぇ…』


そう思いながらトレーニング用のジャージに着替え、キッチンでスポーツドリンクを飲んだ後、鍵をもって隣のジムへ行くなりストレッチ開始。


ストレッチを終えた後、一般のものよりも太く、重量のある縄跳びを手にし、タイマーをセットした後、駆け足飛びを始める。


15分後にタイマーが鳴り、1分間休憩した後、再度15分間飛び続けること3セット。


雨の日は、縄跳びトレーニングをメインにしていた。


『ラスト』


そう思いながら黙々と腿の高さを気にし、駆け足飛びを続けていると、「腿、下がってる」と言いながら、カズ兄が正面にあるリングに腰かけた。


黙ったまま、腿上げをしながら駆け足飛びを続けていると、タイマーが鳴り響き、その場に座り込む。


カズ兄は何も言わず、スポーツドリンクを手渡してきた。


呼吸を整えながらスポーツドリンクを飲むと、カズ兄が切り出してくる。


「何分?」


「15。 3セット」


「よくやるわ…」


「やらないとうるさいじゃん」


そう言いながら腕立てを開始すると、カズ兄は無言のままジムを後に。


一人取り残されたことも気にせず、腕立ての後に腹筋を開始していた。


筋トレを終えた後、すぐに自宅に行き、鍵を置くと同時に「いってきま~」と声をかけ、フードをかぶった後、おじいちゃんの家に向かって一直線に。


『雨だから車で送る』なんて優しい言葉をかけられることも、期待することもなく、水たまりを気にしないまま、水しぶきを上げ、通いなれた道を黙々と走り続けていた。



1時間後、制服に身を包み、傘をさして歩き始める。


『あ、今日から陸上部だっけ。 ま、雨降ってるし、中止だろうな…』


水たまりを避けながらそう思い、急ぎ足で学校に向かっていた。



時間が経つとともに、雲が晴れ、放課後には晴天となっている。


空は晴れたけど、グランドは濡れているし、大きな水たまりだって作られている。


勝手に『中止だろうな』と思っていると、女の子が声をかけてきた。


「中田千歳さん、今日から陸上部だよね? 私、陸上部マネージャーやってる1-Aの福岡早苗。 よろしくね。 部室、案内するね」


「え? グランド使えるの?」


「状況次第かな。 やるかどうかは部長が決めるから部室行こ。 こっちこっち」


嬉しそうに手招きされ、早苗の後をついていく。


部室に入った途端、偉そうな女子生徒が、大きなデッキブラシを放り投げてきた。


「さっさと着替えて、グランドの水たまり、マネージャーと一緒に掃いといて」


偉そうな態度にカチンと来つつも、黙ったまま更衣室へ。



一緒に着替えている早苗に「今の誰?」と聞くと、早苗は言いにくそうに答えていた。


「元部長で3年の山岡塔子さん。 1年の時、短距離地区大会で準優勝したんだよ。 この前の大会で膝を痛めて引退したはずなんだけど、ああやってたまぁに来るんだよね…」


「ふーん。 だから偉そうなんだ」


「引退したから関係ないと思うんだけど… なんかよくわかんないや。 早く行こ。 怒られちゃう」


足早に更衣室を出ようとする早苗の後を追いかけ、グランドに出来上がった水たまりを掃いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る